都庁採用試験では受験生の何を見ているのか(筆記試験)

採用試験では、受験生が将来どのような職員になりそうかが検証されます。

もっとも、選考に費やす時間が限られるため、その人材の実力、性格、潜在能力などの全てを把握することなど到底できません。

そこで、その人材を理解するためのいわばサンプル検査として、筆記試験、面接試験が行われます。

採用試験で検証されるのは、第一に、仕事で必要な能力、第二に、取組姿勢です。

教養択一
採用当局としては、記述試験の採点の数を絞りたいという側面もあります。
もっとも、そのためだけなら、現状と異なる出題内容(例えばSPIのような適性検査)でも達成可能です。

なぜ試験当局は、現行の出題内容に辿りついた(少なくとも概ね現状で良いと考えている)のでしょうか。

まず、第一点目の仕事で必要な能力についてです。

政策に携わる場合、世の中で話題になっていることや生のデータから、行政が取り組むべきテーマや課題を設定する力が必要です。
社会科学にせよ、自然科学にせよ、広い教養があったほうが、様々な着想を得ることや、多様な角度から検証することに役立ちます。

歴史や化学などの知識を仕事に直接活用できることは少ないかもしれませんが、どこかで役に立つ時が来ます。

例えば環境局で再生可能エネルギーの導入促進施策に携わる場合、太陽光発電の基本的な仕組みを理解できている人のほうが、諸々の議論に説得力が出ますし、政策を考える過程でも役立つことがあるでしょう。
(具体的な専門知識はそうした部署に異動してから身に付ければ十分です。その際、科学の基礎的な教養があれば役立つということです。)

そして、様々なことに関心を持ち、都庁に入ってからも社会の出来事やテクノロジーの進歩などを進んでフォローするタイプでないと、時代に合った新しい政策を提案できません。
(この点で、都庁の既存の政策を知っているだけではあまり役に立ちません。大事なのはそうした政策を導入した背景です。背景が変われば、それに応じて、効果が見込まれる政策も変わります)

以上の点から、都庁の採用試験でも、教養試験は一定の重要性を占めています。今後も、様々な部署への配属・異動が行われることを前提に職員を採用する限り、教養試験がなくなることはないでしょう。

知能分野に関しては、地頭が良いタイプであれば有利になるかもしれません。もっとも、全問正解する必要はなく、合格レベルを超えれば十分と考えるなら、パターン習得で対応可能です。地頭で勝負のタイプでも、努力でカバーのタイプでも、どちらでも構わないと当局も考えているのではないでしょうか。

これは都庁に入ってから、新しい仕事を覚えるときでも、施策のアイディアを出すときでも同様です。要領の良さでも、人並み以上の努力でも、一定以上の成果を出せるのであればどちらでも構わないという認識です。

特に、全庁的に異動し、様々な分野の仕事を経験したいという場合、2、3年ごとに振出しに戻って全く新しい仕事を覚える必要があります。
新たな人材を迎える側としては、人員が限られる中、早く仕事を覚えて戦力となってほしいのです。じっくりマイペースでよいとは言っていられません。

次に、第二点目の取組姿勢についてです。

教養択一で検証できる取組姿勢は、宿題をきっちりやってくるタイプかどうかです。

仕事に就いてからも、その都度新しく覚えなければならない法令、制度、実務手続きなどはいくらでもあります。いくら地頭が良くても、そうした知識を身に付ける努力を全く行わないタイプの人材を採用してしまうと、本人も組織も後で困ることになります。

したがって、ある程度は地道な準備を行い、必要な知識を身に付ける意欲も見られていると言ってよいでしょう。

「時間がなかった」は言い訳として認めてもらえません。「少しずつでも時間を捻出できなかったのか」「もう少し早い時期から取り掛かることはできなかったのか」が問われます。
「時間がなかった」という主張は、趣味の時間や睡眠時間を削ってまでやるほどの意欲はない、そこまで真剣には考えていない、と評されてしまいます。

また、あまり準備をせず、本番一発勝負に賭けるタイプを、組織は好みません。たとえ本人は自信があるとしても、組織や上司としては気が気ではありません。
論文・面接の場合、当日の運が良ければ一発勝負でも結果的に何とかなる可能性もありますが、知識系科目の場合、入念な準備を行わないと、合格を争う水準に達しません。

なお、新方式では、一般方式と比べ、教養択一の知識分野を減らし、知能分野を増やしています。
新方式の場合、専門記述が課されていない分、入都後は、法律などの専門分野でのハンデが(少なくとも入都当初は)どうしても生じます。

そうしたハンデを克服する(あるいは、知識以外を自分の強みにする)にあたっては、地頭がいい、着眼点が鋭いタイプのほうが、新方式経由で入る職員には向いている、むしろそうした強みを発揮する役割が期待されている側面もあるでしょう。新方式の導入にあたって、人事当局も、多様な人材の確保をその趣旨に挙げています。

専門記述
まず、第一点目の仕事に必要な能力についてです。

憲法や行政法など、基本的な法律をそのまま仕事に活用する機会はほとんどないでしょう。経済学系や技術系でも同様です。ただし、こうした知識は、行政職(または技術職)としての教養、基礎力に該当します。

例えば法律に関しては、配属部署に応じて固有の法令を身に付ける必要があります。そのときに法律の構造や解釈の基本ルールが分かっていれば、よりスムーズに仕事に馴染むことができ、職務に必要な法令をより深く理解できることにもつながります。

こうして、専門記述で法律を選択していた人は、法律に強みを持つ人材として庁内でのポジションを築くことも可能です。これは経済系、技術系に関しても、立場を置き換えれば同様のことが言えます。

次に、第二点目の取組姿勢についてです。

入都後も、各職員が自分の強みを磨くことが推奨されています。
せっかく専門記述に向けて勉強するのであれば、試験で課されているからという消極的な姿勢ではなく、都庁に入ってからの強みとして活用・応用するのだという姿勢で取り組みたいところです。

専門記述は、入都後に自分の強みを発揮できる職務分野につながるため、できるだけ高いレベルまでやっておいて損することはありません。採用試験の最終合否が決定される総合点にも加味されるのですからなおさらです。

専門記述は選択解答方式です。つまり、試験当局は、「自分が得意な分野を選んで勝負してくれて構わない」という認識です。逆に言うと、「仕事で『強み』にできるほどのレベルに達していることを示してほしい」ということでもあります。

数多くの論点をカバーするのも大変で、各分野で1題しか出題されませんから、「別の論点が出題されていたら書けたのに」ということも起こるかもしれません。

この点は、少なくとも基本書に掲載されている事柄に関しては、何が出題されたとしても一定水準の回答ができるレベルまで勉強を進めてほしい、あるいは、苦手な論点が出題される可能性もふまえ、複数の分野を計画的に準備してほしい、という当局からのメッセージと受け取る必要があります。

最低限の3分野に絞り、これに勝負を賭けるというのもアリですが、「取組姿勢」の観点では、最悪の事態に備え、予備としてさらに1、2分野準備しておくというのが、当局が好む人材タイプです(特に、都庁が第一志望である場合)。

特に行政(事務)区分の方は、専門試験の科目数を多めに勉強しておけば(ただし、広く浅くにならないよう注意が必要ですが)、本試験での保険となるだけでなく、入都後の仕事や昇任試験にも役立ちます。

論文/プレゼン・シート
論文試験に関しては、取組姿勢よりも、仕事で求められる基礎力が試されています。これは一般方式、新方式ともに言えることです。

がんばって答案用紙を埋めただけでは厳しい評価となります。受験生の答案は、将来の仕事ぶりのサンプルとして見られます。上司から「課題解決案をいくつか提案してみて」と言われたとき、どのような報告書を作成すべきかということです。

採用試験に向けて論文を準備している場合は、仕事の報告書(提案書)としても通用するものとなっているかどうか確認してみてください。

理念めいた抽象的な記述が多少含まれていても構いませんが、そればかりでは、都庁上層部を納得させられるか、税金を投入することを都民に納得してもらえるか、という点で無理があります。論文試験は、あくまでも職員(実務者)を選抜するために実施されています。

ポイントは、その答案に書かれた流れで、都庁上層部を自分が説得できるか、住民説明会で自分が矢面に立ち説明できるか、という当事者の立場(自分が都の担当者だったらという視点)で検証することです。自分が提案した取組に何億円、何十億円と投じることに賛同してもらえそうにないのであれば、構成を練り直す必要があります。

書き手の視点で筋が通っているかは問題でなく、読み手(採点者側)の視点で説得力があるか、納得できるかが大事です。

事実やデータをもとに、課題を抽出し、改善策を考えることは、仕事に直結します。
また、論文といっても、分量的には原稿用紙4枚程度です。初めて話を聞く人に簡潔に説明することは、入都後も日常的に必要となる能力です。

なお、「課題を見つけよ」「解決策を考えよ」と誰かに指示されなくても、何か改善できることはないかと自主的に考え、行動するタイプの人材がベストですが、この点は論文試験ではなく、その次の面接試験で問われることです。

いずれにせよ、採用試験合格という具体的な目標があり、まとまった時間も確保しやすい今のうちに、基礎となる土台をしっかり身に付けておくことをお勧めします。

入都後は、仕事で専門誌の原稿執筆を依頼されることや、勉強会等の成果報告レポートを書くこともあります。そうした機会に、「優秀そうな若手がいるな」と認知されて損することはありません。

また、入都後は、主任試験の受験時期まで、採用試験のような「しっかりした論文」を書く機会はそれほどありません。
このため、主任試験の準備にあたって、採用試験以来で慌てて論文対策を行う職員も大勢います。

もっとも、採用試験の段階でしっかりした論文が書ける人は、主任試験も順調に通過します。

これは、問いに的確に対応、分かりやすい文章構成など、基本的な視点が定まっているためです。こうした視点を持っているがゆえに、日々のちょっとした上司、同僚とのやり取りでも、着眼点が鋭い、説得力がある、という評価につながります。

Ⅰ類B新方式のプレゼンシート作成に関しては、都庁で上層部にレクチャーをする時の説明資料に作りがそっくりです。資料作成だけが仕事ではないですが、かなり実際の仕事に近い状況と言えるでしょう。

生データからの課題抽出、政策立案、関係者への説明(説得)と、新方式で試されていることは、間違いなく仕事に直結します。むしろ、当局はそうした力をダイレクトに検証したいから敢えてそうした出題形式にしているのでしょう。

こうした力が必要とされるのは、政策立案レベルの話だけでなく、現場の職場改善といったレベルでも同様です。

なお、新方式で、プレゼンテーションが行われる前に、シートに書かれた内容自体で一次審査をするのは上手い方法だと思います。話し方の巧拙によって、内容も良く見えてしまう、悪く見えてしまうといったバイアスがかからない状態で、分析力や構成力、文章での表現力を検証することができます。

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