平成27年9月のことですが、スタンダード&プアーズ(S&P)社は、日本国の格付け(長期)を「A+」に引き下げ、次いで、東京都の格付けも「A+」に引き下げました。
言い換えれば、借金(国債や都債)を将来返済できないリスクに関して、世界的権威とされるS&P社は、国と都を同レベルと見ています。
格付け引き下げについて、当時、都知事が以下のようにコメントしています。
「今回の格付けの変更は、国の格付けの引き下げを理由として行われたものであり、都の財政状況に起因するものではない。
都の自主財源基盤は強固で、財政の健全性も高い水準にあることは、かねてから、S&P社自身が認めている。
S&P社は、国の格付けの制約を受ける前の都自身の信用力(スタンドアローン評価)について公表し、従前から、国を上回るレベルである「aa」としている。格下げが行われた現在もなお、都のスタンドアローン評価については「aa」が維持されており、都財政の健全性については、引き続き、高く評価されている。」
「一方で、S&P社は、日本の税財政制度が、中央集権的であることから、自治体の格付けについて、事実上国の格付けを上限としており、今般、国の格付けの引き下げを契機に、格付けを付与されている他自治体とともに、都の格付けの引き下げに及んだ。」
上記後段で「日本の税財政制度が、中央集権的であること」が挙げられています。
これを言い換えると、「国の財政が本当に行き詰れば、財政に余裕のある自治体から地方税が召し上げられる。一部の自治体だけ安泰ということにはならない」、とS&P社が考えているということです。
確かに、国と地方の税配分をどうするか、地方税のうちどれだけが都に入るかは、法律の条文しだいです。これは都の同意がなくても、国会で法律改正が可能です。
もっとも、国としても、あまりに強権的と世間に思われては政治的なダメージを受けます。通常は、都知事、都議会に話を通し、都からも一定の理解を得るということになりますが、本当に瀬戸際となれば、都が反対しても押し切るという事態になるかもしれません。
特定の地方自治体にのみ適用される特別法を制定する場合は住民投票が必要ですが(憲法95条)、「地方税法全般の改正であって、東京都を狙い撃ちするものではない」と論陣を張られるとストップをかけるのは難しいでしょう。
なお、財政基盤の安定性は、職員の雇用の安定性とも関連します。この点では、都職員の安定性は、少なくとも国家公務員と同程度であると言えます。
少なくとも、S&P社が第三者の目で見て、都の固有の事情で、職員給与の大幅カットや、整理解雇につながるような事態となるリスクは低いと考えているといえます。
少なくとも、S&P社が第三者の目で見て、都の固有の事情で、職員給与の大幅カットや、整理解雇につながるような事態となるリスクは低いと考えているといえます。
ただし、上記で議論されているように、将来にわたり都庁だけが安泰とまでは言い切れません。
2050年には、日本の人口は約3千万人減少し、1億人を割り込むと言われています。東京への人口流入が続くとしても、国全体の財政力が衰えることで、都財政も影響を受けるおそれがあります。これから都庁に入る方の場合、その頃はまだ現役世代です。
一方、たとえ財政的に苦しい状況になったとしても、行政職員の人数がゼロになることはなく、組織の側でもコアの職員を確保する(引き留める)ことが必要です。
中長期的なリスク管理として、都庁に入ってからのポジション(必ずしも出世ではないですが)を若手のうちから意識しておく必要があると思います。
都庁に限らず、組織内のポジション(立ち位置)が決まる過程は、単純化すればトーナメント制のようなものです。ただし、敗者復活戦もあります。
1回戦で敗れても、またチャンスを与えられ、2回戦、3回戦(より難易度の高い仕事や上位の職責)へと進む機会はあります。
しかし、早い段階で自ら参加を放棄したような場合は、後で考えが変わったとしても、再度参入するのは困難です。後になってから、いきなり3回戦から参入ということはできません。
しかし、早い段階で自ら参加を放棄したような場合は、後で考えが変わったとしても、再度参入するのは困難です。後になってから、いきなり3回戦から参入ということはできません。