これからの都庁の給与制度-平成28年 人事委員会勧告

東京都の平成28年人事委員会勧告が行われました。勧告が行われた内容から、今後の都庁および地方公務員の人材評価、待遇についての方向性を伺うことができます。

初任給:1類Bは国の総合職(大卒程度)と同額に引上げ
金額にして月1,800円(地域手当含む)の引き上げですが、ボーナスや残業手当単価もこれをベースに計算されます。
後述のベテラン層の給料水準を切り下げる動きとは対照的に、若手には配慮する当局の姿勢が伺えます。

また、都の人事当局としては、都庁1類Bは国家総合職と同等と見なしている点が伺えます。

ボーナス:民間の支給状況を踏まえ年間支給月数を0.10月分引上げ
引上げは勤勉手当で実施
現在、豊洲、五輪施設に関して都民から厳しい目が注がれている折でもあり、勧告通り引き上げられるか紆余曲折があるかもしれません。まずは、給与条例の改正案を作成する知事の判断に委ねられます。さらに、その後、都議会の議決が必要です。

一方、中央卸売市場の職員数は624名(本庁に限れば164名)、オリ・パラ準備局は228名と、都庁の中では小規模な部局です。問題とされる部署で勤務していた職員は少数であり、意思決定に関与した職員はさらに少数でしょう。都庁職員全体がみそぎを行う形にすべきかどうか、難しいところです。

問題の全容(責任の所在)が明らかになるまで、引上げを当面延期するのが落としどころでしょうか。

また、引上げは「勤勉手当」で実施とあり、成績率(仕事ぶり)に応じて支給額が増減します。全員が満額もらえるわけではありません。

ところで、近年は民間の景気動向を反映し、支給月数の引上げが続きました。
将来、引下げの局面を迎えた場合、引下げが「期末手当」で実施されると、ボーナスのうち「勤勉手当」の占める割合が高まり、ますます業績主義的な給与体系へと近づきます。

下位職層の給料上限をカット
「1級の在職実態を踏まえ、極めて長期にわたり在級している職員に適用されている150号給から153号給までの4号給をカット」とあります。

金額は月1,440円とわずかですが、天井が下がったという動きが重要です。

1級(主事)の新たな最高号給は149号です。新卒1類Bで1級29号からスタートし、主任試験に取り組まず、主事の役職に留まった場合、入都後約30年で到達します。

勧告では、今後の課題として、「職務給の更なる進展」、「生活給的、年功的要素の抑制」を挙げています。天井が下がるのはこれで最後ではないでしょう。

仮に、今後20年間にわたり、2年に一度のペースで同様の措置が取られた場合、1級の最高号給は110号ほどとなります。給料表がこのような構造に変わると、主任、課長代理へと昇任しなければ、概ね40代前半から半ばで給与が頭打ちとなります。

家族の扶養に係る手当
「配偶者に係る手当額を父母等に係る手当額と同額まで減額し、それにより生ずる原資を用いて子に係る手当額を引上げ」とあります。
(配偶者:13,500円→6,000円、子:6,000円→9,000円)

課長等に適用される行政職給料表(一)4級等の職員については、配偶者及び父母等に係る手当額を3,000円に引下げです。部長級については、家族の扶養に係る手当は既に廃止されています。

生活給的要素(雇用主が職員とその家族の面倒を見るという発想)を抑制し、職務給(果たしている職責に対して報酬を支払う)を更に進展させる観点から、家族の扶養に係る手当は近年縮小方向です。

一方、国を挙げて取り組んでいる主婦層の社会進出、少子化対策への配慮から、配偶者については手当が減額、子については増額されています。(少子化対策としての手当については、雇用主ではなく、国や自治体が福祉施策として実施するのが本来の筋と考えますが)

勧告で示された今後の課題
職務給の更なる進展に関して、以下の点が指摘されています。

「行政職給料表(一)の1級・2級の給与水準については、上位級との職責差の適切な反映等の観点から、見直しを図る必要」

「2級の高齢層の職員に適用されている給料月額が、3級の中高齢層に適用されている金額と大きな差がなく、また、40歳台前半層において、2級の昇給額が3級の昇給額を逆転する場合が存在」

「1級・2級について、上位級とのバランスを考慮した昇給幅への是正の視点から、適宜、適切な対応を検討」

つまり、主事・主任の高齢層については、今後、徐々に給与水準が引き下げられる可能性が高いということです。
こうした動きは他の自治体にも波及するはずです。自治体間で給料表を比較するのは容易です。国も放任してくれません。

公務員になればある程度の生活水準は保証されると言えますが、以前のように「就職すれば一生安泰」とまで言い切るのは難しく、個人差が拡大しそうです。

都庁のケースで例えるなら、主任試験に合格した後、良好な勤務成績を重ねて課長代理級への昇任が見えてくるあたりが目安となりそうです。この段階に至れば、「都庁に入ったら、将来はこれくらいほしい」と一般に期待される処遇を確保できるだろうという意味で、「安泰」と言えるでしょうか。(ボーナスは毎年の成績率で増減するため、気を抜くことはできませんが)

その他、勧告では以下の課題を打ち出しています。
・能力・業績を反映した給与制度の更なる進展
・生活給的、年功的要素の抑制

人事制度及び勤務環境等に関する報告(意見)
年齢別職員構成のバランスなど中長期的な視点から、採用制度のあり方について以下の点が指摘されています。

「社会人経験者採用の拡充や任期付職員の更なる活用など新規学卒者のみに頼らない人材確保に取り組んでいくことも必要」

「採用PR活動について、常に検証・改善するとともに新たに第二新卒者等をターゲットとするなど戦略的な人材確保に向けた取組を推進」


この背景として、少子化に伴い、新規学卒者の供給市場の縮小が想定される中、新卒を主な対象とした採用だけでは人材の十分な確保が困難となる可能性がある点を挙げています。

また、新たに第二新卒を採用ターゲットとすることに関しては、民間企業等で採用活動が活発化するなど、都の職員採用を巡る厳しい環境を踏まえたものとしています。

現行の「キャリア活用採用」(いわゆる中途採用、転職)は、庁内に不足する専門人材(資金運用、システム開発、不動産利活用、国際業務など)を確保する趣旨で行われています。
このため、受験資格として、学部卒は7年以上、院卒で5年以上の職務経験が必要です。

第二新卒の採用について、勧告の中ではPR活動の展開しか言及がありませんが、将来、仮に専用の採用枠が設けられたなら、1類A・B採用とキャリア活用採用のギャップを埋めることができます。

就職後2、3年目での転職という点で、前職でそこまで高い専門性を身に付けているとは言い難く、一方で、学生の受験生と同様に法律学や経済学などの専門試験を課すのは酷と考えられます。
第二新卒枠で採用が行われるとすれば、1類B新方式に似た形式で、前職での成果や前職で人材として成長した点を検証する試験になるのではないでしょうか。

これまでもいわゆる第二新卒で1類A・Bを受験し直す方はいましたが、専用の採用枠が設けられ、昇任試験までの年数も配慮されるなら、都庁への転職を検討する方も増加すると考えられます。

また、初めての就職では、周りの評判やステイタス、いわゆる難易度(偏差値)で就職先を選んでしまうことも往々にしてあります。あるいは、やむをえず不本意な就職を行った方もいるかもしれません。

都庁が公的組織として、若い人材に仕切り直しのチャンスを与えるという点でも、第二新卒での採用を拡大するのは有意義と考えます。

関連記事 『これからの都庁の給与制度-平成27年 人事委員会勧告の分析』
関連記事 『都庁1年目の年収』
関連記事 『入都が1年遅れた場合の損失』
関連記事 『都庁職員の年収-公務員は金持ちか』

都庁の「理解度」でライバルに差をつけるために
本当の都庁の姿、都庁の仕事、組織が職員に求めている本音を理解し、正しい方向で採用試験に向けた準備を進める


ミクロの視点で人物評価の根本に迫る面接対策
100の場面を通じて、実際の職場で優秀と評価されている都庁職員の習慣から学ぶ、面接で評価される人材の思考・行動様式