従来から総合職、一般職の区分はありましたが、総合職の中でもさらに特別な区分を設ける動きと言えます。
日本企業が海外に活路を見出すとき、何でもできるジェネラリストより、海外マーケットに詳しく、自らネットワークを築いて販路を拡大できる人材、または、それを現地採用スタッフに委ねるなら、現地の拠点をマネジメントできる人材が必要です。
人材育成と称して全員を支店勤務からスタートさせる、いわゆる「雑巾がけ」の期間が長い従来の日本スタイルでは、外国企業との熾烈な競争の下、育成が間に合わないということでしょう。
また、優秀な人材の確保に関して、外資系企業に見劣りしないようなキャリアパスを用意するという側面もあります。
都庁においては、都知事も、職員の能力を伸ばすことが重要との文脈で、都には危機管理、都市外交、国際金融の人材が不足していると述べています。
また、出向者を受け入れるなど、外の組織の力を借りるのは決して悪いことではないものの、それを将来にわたり続けていて組織が活性化するのか、と課題を提起しています。
危機管理の人材育成は自前で
この中で、都市の危機管理に関しては、内部の専門人材を育成するのが大事と考えます。この機能を欠くと、甚大な被害のおそれがあるためです。
同分野の経験のない管理職が就任し、「勉強」をしているうちに、大規模な災害が発生する可能性もないとは言えません。
例えば、現在、主税局でほとんどの年月を過ごす職員(いわば税務の専門人材)は数多くいます。一方、都庁人生のほとんどが総合防災部(総務局)勤務という職員はまずいません。
都市の危機管理を所管する部署を独立した局レベルに格上げし、組織内で人材育成を行い、防衛省や東京消防庁、警視庁への出向経験も積ませるなど、都市の防災や危機管理が専門といえる幹部を育成できるようにするのが望ましいと考えます。
そうなると、管理職試験Bの選考区分(職群)も、「危機管理・災害対策」の新設が必要でしょう。現状ではその区分がないということは、そこまで重要な柱として扱われていないことの裏返しです。(例えば「環境」の区分はあるので、そちらの分野のほうが重視されていると言えます)
もっとも、危機管理の分野では、待機や緊急呼び出しなど、私生活が制約される側面もあります。入都後に偶然配属された職員に、危機管理の部署で定年まで留まれというのは難しいかもしれません。そうした志を持った人材を危機管理の枠で採用するほうが望ましいでしょう。
新体制の立ち上げ時は、警視庁や東京消防庁から都庁に出向してきた人材に、キャリアチェンジとしてそのまま都庁に残ってもらう(完全に移籍)という手もあります。
都市外交の人材育成は程々に
都市外交については、意思決定の権限を持った都の幹部が、海外の自治体や政府機関、企業等の幹部と直接やり取りができれば、いわゆる「トップ会談」「トップセールス」のような形のほうが、担当者レベルで調整に時間をかけるよりも、話が早いこともあります。
もっとも、中央省庁のように、幹部候補を若いうちから海外へ派遣したり、国際部署を経験させることができればよいのですが、都庁ではエリート幹部の候補者が決まるのは最短30歳とやや遅く、外国語を話せる幹部をシステマチックに育成するのは難しい側面があります。
この点は、エリート枠の採用を行わない都庁の弱点といえるかもしれません。
「将来は、英語も話せる幹部職員になりたい」という、若手職員の心がけしだい(自己研鑽の範疇)となっているのが現状です。若いうちに国際関連業務に携わっていた職員を、国際分野の幹部としてあえて育成するというほどのことは行われていません。
現在の都知事は都市外交に力を入れていますが、危機管理と比べれば、都市機能として必ずしも必須ではありません。あれば役に立つのは事実ですが、なければ困るというものでもありません。したがって、採用の枠を分けたり、初めから専門人材として育成する必要性は高くないと考えます。
なお、かつて「都市外交」の枠で経験者採用を行っていた時期がありましたが、2、3年で中止となりました。現行の都庁の組織体制では、都市外交の分野だけで20年、30年とキャリアを築くのは難しいです。
主税局が組織を挙げて税務に強い幹部を育成しているのと同様に、組織として国際分野に強い幹部をあえて育成するという位置づけにするなら、状況も変わるかもしれません。
そのためには、国際部門経験者の管理職試験の合格者を増やすよう組織としてバックアップする、管理職試験Bで、「財政・税務」「産業・労働・経済」などの選考区分(職群)があるのと同様に、「都市外交」の選考区分を設けるなどの措置が必要でしょう。(現状では非現実的と思いますが)
国際金融人材を育てるのは困難
国際金融に詳しい人材となると、都庁内ではさらにキャリア形成が難しいです。おそらく、優秀な人材は、金融機関や証券会社のほうが活躍できるし、そのほうがキャリアアップになると本人も考えるのではないでしょうか。
都庁の昇進の慣行を変えて、国際金融を扱う部門限定で主任→課長代理→課長→部長とストレートに昇進できるようにすれば、専門性と経験を持った人材は育成できるかもしれません。
しかし、一方で、国際金融の主なプレーヤーは国際機関や政府系・民間金融機関です。都庁内でほとんどの期間を過ごした人材が「国際金融の専門家」と言える実力を養えるかという問題もあります。
この点は、役所自体が主要プレーヤーである財政・税務や社会福祉、社会インフラの分野と異なります。
都庁が自前で一から育成するというよりは、当該部署に関しては民間からも転職しやすい組織体制、別建ての報酬体系とするのが効率的と考えます。
「国際金融局」のような部門を設置して、その局の中で、あるいは財務局と行ったり来たりしながらキャリアアップを目指せるのでもない限り、都庁の生え抜き職員として、優秀な人材確保、専門人材の育成、モチベーション維持は難しいでしょう。
もっとも、局を新設するほどの重要性や、それだけの人員を割く業務量が恒常的にあるかというと、疑問です。
都知事が「これからはこんな人材が必要だ」と述べることがあります。都知事がそう言っているならと、受験生が面接で「自分は都庁でそれに携わりたい」と言ったとしても、必ずしも評価されるとは限りません。人事当局としては、現時点で、新卒採用の方にそうした役割を求めているとは限らないからです。
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