都人事委員会勧告の文章は、都庁らしい文章の展開、表現(言い回し)の研究としても活用できます。
この文書は、担当者が何となく書いたものでなく、ちゃんと意図が伝わるか、誤解されないか、揚げ足を取られないか、と多方面からチェックされた上で公表に至っています。
「人事制度及び勤務環境等に関する報告(意見)」の5ページ目の中段に、「高度化・複雑化する都政課題に的確に対応し、その解決を図っていくには」とありますが、「その解決を図るには」や「その解決のためには」と書かれていないのはなぜか、ニュアンス、意味合いの違いを検証するのもよいでしょう。
例えば、以下のような意味合いの違いです。
「解決を図る」・・・解決につながるような取組や検討を行う(過程に焦点)
「解決する」・・・問題が解消する(結果に焦点)
普段から、表現の違いに緻密にこだわっていたほうが、緊張下で時間制限もある論文・面接でのミスを防ぐことにつながります。
論文試験で、「学生だから、学生らしい文章で良い」ということはありえません。試験から1年も経たないうちに、職場で文書作成に携わることとなります。「都庁らしい文書」「仕事でも通用する文書」を採用試験の段階で書けるに越したことはありません。
少なくとも、論文の構成、表現方法等に関して、都の職員が見ても違和感のない水準に仕上げておくのが望ましいです。
「都職員となる意気込みを自由に述べてください」といった作文の課題であれば、どのような書き方でも問題ありませんが、近年は、具体的事例を基に政策提案の報告書を作成する出題形式となっています。
政策立案に携わる部署であれば、こうした論文(報告書)やプレゼンシート(説明資料)を作成することは頻繁にあります。
ところで、「解決を図る」の記載に関連してですが、行政の立場では、複雑な都市問題を「解決する(解決した)」とは軽々しく言えません。「少しでも改善していく」「解決に近づけていく」というのが穏当なところでしょうか。
哲学者ベンサムの言葉で「最大多数の最大幸福」とありますが、関係者の全員が満足ということは通常想定できません。行政が動けば、多かれ少なかれ、あちらを立てればこちらが立たずになります。
古い木造住宅の耐震・耐火建物への建て替えを促す場合、延焼防止にはつながりますが、一方で、建替えにあたって一時退去が必要な住民の生活再建をどうするのか。
あるいは、建替えに補助金を出すとしたら、見方によっては役所の補助で安全性の高い新築住宅を手に入れる形になりますが、一般の都民との公平性はどうなのか。
一方で、公平性を重視するあまり、補助金を少なくすると、インセンティブが削がれて建て替えが一向に進まない、など慎重な検討を要する問題があります。
そこで、「いろいろと悩ましいところだが、自分ならこうする」「反対者には、このように説得を試みる」と普段から都政の課題について考えている方は、論文や面接で深みを出すことができます。
採用当局は、都政の課題に関心を持ち、自分なりに悩み、考えている人材に、職員候補としての「熱意」や「意欲」を見出します。都政について知識があることよりも、どれだけ深く考えているかが大事です。
自分が政策を扱う職務に就いた場合、既存の取組については、資料で調べることもできますし、担当部署に問い合わせることもできます。しかし、目下の問題にどう対応していくのかについては、担当職員として自分で考えなくてはいけません。