都知事が都議会(平成28年第4回定例会)で所信表明を行いました。
受験生の方が都政の重要課題を知るための参考になりますので、抜粋を紹介したいと思います。また、将来携わってみたい仕事が都庁にあるか、都庁では自分の望む働き方ができそうか検討する際にも活用してください。
なお、採用試験では都政に関する知識の量を競うわけではないため、知事の発言や都の取組を暗記する必要はありません。全体をざっと眺め、自分の関心のある分野についてさらに詳しく調べてみる程度で十分です。
また、志望動機に関して、知事発言などがきっかけで都政に関心をもつようになったというのは大丈夫ですが、「知事の理念である3つのシティに共感したから都庁に入りたい」というのはお勧めできません。知事の在任期間は平均的には2期(8年)ほどですが、都庁で勤める期間は職員のほうが遥かに長いのです。
<以下、知事所信表明抜粋>
1 「新しい東京」への確かな道筋を描く
(都民と共に明るい未来へ)
「2020年に向けた実行プラン(仮称)」には、3つのシティ、すなわち、安全・安心・元気な「セーフ シティ」、誰もがいきいきと活躍できる「ダイバーシティ」、環境先進都市、国際金融・経済都市として成長を続ける「スマート シティ」。この実現に向けた、4年間におけます集中的な取組を盛り込んでまいります。
東京が抱える課題の解決とより一層の成長創出のため、これまでの長期ビジョンに掲げた取組をさらに進化、加速させて、新たな発想を取り入れた政策にしてまいります。
加えて、プランでは、2020年の先、「Beyond 2020」におけます東京の明るい未来像も大胆に描いていきたいと思います。
2020年以降の少子高齢化の急速な進行や人口減少などの不安材料はございますが、そうした困難にしっかりとした準備を行って、将来の夢溢れる東京の姿を、分かりやすく具体的に示していく。そのことが、これまでの延長線を超えた政策の立案、それらの推進力となる都民の皆様方の共感を呼ぶことに繋がっていくことでありましょう。
民間の研究機関が発表した今年の世界の都市ランキングでは、東京はパリを抜いて初めて3位となりましたが、ここで常にトップに君臨する、世界中の憧れの都市を目指すというのも、分かりやすい目標でありましょう。
(改革の先に信頼を取り戻す)
市場の移転問題を解決する。東京2020年大会を成功させる。そして、「新しい東京」への一つひとつの政策を花開かせる。これらは全て、都民の皆様のご理解を得なければ実現できないものばかりでございます。その基盤となる信頼を取り戻すため、都政改革に着実に取り組んでまいります。
改革を進めるための一番のツールは、情報公開の徹底でございます。情報公開は信頼回復への一丁目一番地であることはもとより、これを進めて官民の知恵を結集させていきますと、幅広い課題にスピーディーに取り組むことができ、都政への期待を高めることにも繋がってまいります。
加えまして、各局では、自律的に進める改革の項目をすでに300以上挙げて、若手職員の意見を施策の形成や業務改善に反映させる仕組みなど、前向きな検討を行っております。
その状況につきましては順次公表するとともに、今後は、政策や事業の見直しに向けました自主点検など、一段高い取組も進めてまいりたいと思います。職員の意見が直接私に届く職員目安箱にも、職務の改善案等が数多く寄せられております。
2 東京2020大会は「新しい東京」づくりのチャンス
〈安全・安心のさらなる推進〉
大会の成功、そして、その先の持続可能な東京の大前提となるのは、安全・安心の確保であります。
特に、東京が直面する最大の脅威であります首都直下型地震に対しては、万全の対策を講じていかなければなりません。甚大な被害が想定される木造住宅密集地域においては、建物の不燃化に加えて、延焼の遮断や避難・救援活動に大きな役割を果たす特定整備路線の整備を強力に進めてまいります。
また、日本の象徴である桜とほぼ同数、全国に3500万本もあるという電柱。これもまた日本の象徴なのかもしれませんが、私は、東京の電柱をゼロにしたい。
震災時には倒壊して救援・復旧活動を停滞させかねないほか、景観を損ねます。ベビーカーや車椅子の通行にも厄介なものであります。「無電柱こそ、日本の新たな常識へ」。今後、国の動きも踏まえまして、無電柱化を推進する条例案を検討してまいりたいと思っております。
〈優しさ溢れる東京の実現〉
多様性を尊重するオリンピック・パラリンピックのホストシティとして、あらゆる違いを超えて誰もが快適に過ごせる優しさ溢れる都市へと、東京をさらに進化させてまいります。
道路のバリアフリー化は、東京2020大会までに競技会場や主な観光施設の周辺について整備するとともに、2024年度までに駅と生活関連施設を結ぶ一定の都道について進めてまいります。
加えて、大会の運営におけます、ハード・ソフト両面のバリアフリー基準「Tokyo2020アクセシビリティ・ガイドライン」、この知見をまちづくりにも活かしまして、高齢者や障がい者に優しいユニバーサルデザイン、隅々まで広げていきたいと考えております。
併せまして、心のバリアフリーも進めてまいります。社会全体で障がいのある方々への理解を深め、差別をなくす取組を一層推進するための条例案につきまして、検討を開始いたします。
〈新たなスポーツ推進計画の策定〉
スポーツは、個人の健康増進のみならず、地域振興、大きな経済効果、異なる価値観を超えた繋がりをもたらすなど、多くの効用を持ちます。
2019年ラグビーワールドカップや東京2020大会を控えまして、こうした新しい視点も踏まえた今後のスポーツ振興の方向性を明らかにするため、新たな「スポーツ推進計画」を策定いたします。
〈東京・日本の文化の魅力向上〉
文化の祭典でもある東京2020大会に向け、伝統芸能から、キラーコンテンツであるアニメ・漫画まで、東京・日本の文化の魅力をさらに高めてまいります。
先般、日本橋で、「東京2020文化オリンピアード」のキックオフイベントを開催をいたしました。この地が全国に広がる五街道の起点であるように、まさに東京が世界への文化発信の起点となっていく。
そのためにも、民間など様々な主体を巻き込みながら、4年間で多彩な文化プログラムを展開し、世界中に日本のファンを増やしたいと思います。
3 「Beyond2020」においても成長を続ける東京へ
東京は今、大きな転換点に立っております。人口減少社会の到来や、高齢化の益々の進行。特に、高度経済成長を機に日本中から大勢の若者が東京に集まって、若い力に溢れる街となった反面、そうした世代が高齢者の仲間入りをしていく2020年以降、急速なスピードで高齢化が進行することが予測されているわけであります。
その中で成長を続けていく都市を創るため、いま何をすべきなのか。そうした視点からの取組を展開をしてまいります。
〈女性が輝く社会の実現〉
ダイバーシティ、すなわち、年齢、性別、障がいの有無などにかかわらず、全ての都民がいきいきと活躍できる社会を実現していかなければなりません。
とりわけ、女性の活躍を推し進めることは日本全体の喫緊の課題であります。しかしながら、世界各国の男女格差を比較するワールド・エコノミック・フォーラムの今年の調査では、日本は144か国中111位と、昨年よりも順位を落とす結果となっております。
女性の参画に向けて、日本は努力をしているものの、それ以上に他の国々が熱心に取り組んでいるということの現れでありまして、このままでは日本が世界から取り残されかねません。東京が、日本の女性活躍を進めるエンジンとなって、強力に取組を進めてまいります。
〈待機児童ゼロを目指す〉
「待機児童ゼロ」を目指した努力も続けなければなりません。先の定例会で都議会の皆様に可決いただいた補正予算による緊急対策も、早速、効果が現れております。保育施設整備のための都有地貸付につきまして、制度を拡充し、区市町村を介して事業者に貸し付ける方式を追加いたしましたところ、第一号となる案件が台東区で決まりました。
今後も、庁内横断的に利用可能な都有地を集め、相談窓口として設置した「とうきょう保育ほうれんそう」による情報提供も進めながら、こうした事例を増やしていきたいと思います。
10月には、待機児童解消や介護など幅広い分野において、国家戦略特区の取組を国と連携して強力に進めるため、都庁内に「東京特区推進共同事務局」を立ち上げました。
その具体策として、今後、介護サービスの充実や介護職員の待遇改善にも繋がります「混合介護」の弾力化や、介護離職をなくすために、中小企業の負担軽減にも配慮しつつ、将来を見据えた介護休業・介護休暇のあり方について検討を進めてまいります。
待機児童解消につきましても、規制改革の面から新たな取組が進められるよう、この事務局をフルに活用してまいります。
〈「働き方改革」こそ東京の活力を高める鍵〉
こうした現代社会が直面する課題の根っこにあるのは、実は「働き方」そのものにあります。
短時間勤務や在宅勤務など、多様なワークスタイルが広がって、定着しますと、育児・介護との両立や女性活躍の後押しとなり、究極的には、満員電車も過去の話となる。働き方改革こそ、ダイバーシティ実現の大きな鍵であります。
そうした認識の下、都は率先して、20時完全退庁のルール化によります超勤縮減の取組を開始をいたしました。加えて、新たに設置した「都庁働き方改革推進ミーティング」において、テレワーク、フレックスタイムの導入や、さらなる改革のメニューを検討をしております。
一方、民間企業に対しても働き方の見直しに向けた支援を行っておりまして、すでに700社を超える企業が都の支援を活用してそれぞれの取組を進めています。
〈明るい未来を築くための教育施策〉
全ての子供の可能性を伸ばすことや、時代が求める人材を育成することが、教育の重要な使命であります。先般開催をいたしました総合教育会議では、こうした視点を踏まえました新たな教育施策大綱の骨子をお示しをいたしました。
家庭の経済状況等にかかわらず誰もが学べる環境を実現できる都独自の給付型奨学金制度、実
践的なコミュニケーション能力を育む外国語教育、ボランティアマインドの醸成、障がいのある子供たちの教育の充実等、教育委員の皆様と自由闊達な意見交換を行ったところでございます。ここでの意見を踏まえまして、さらに議論を深め、来月には新たな大綱を策定してまいります。
(国際競争力を高め、東京からTOKYOへ)
イギリスのメイ首相も、トランプ氏も、それぞれ法人税の大幅な軽減を打ち出しておりまして、国際的な都市間競争のさらなる激化が想定されます中、持続的な成長を手にするには、確固たる戦略が必要であります。危機感を持って、東京を、世界の都市間競争を勝ち抜く最先端都市、スマート シティへと生まれ変わらせなければなりません。
〈国際金融都市・TOKYO〉
その肝となるのは、東京の地位を再びアジアナンバーワンの国際金融都市へと高めることであります。
国との共同事務局を梃子にして、特区制度等をフル活用することをはじめとして、政府とも連携しつつ聖域なき構造改革や規制緩和を実現することで、内外の資産運用業者やフィンテック企業、そこで働く高度な人材を東京に集積させる。それによって東京・日本の国際競争力を高め、政府の成長戦略にも貢献してまいりたいと考えます。
国や民間とも連携しまして、時代遅れの業界慣行、規制、税制等の見直しによって、企業誘致や外国人の生活環境改善等を実現すべく、都として鋭意検討を進めてまいります。
〈環境先進都市として世界をリード〉
大規模なオフィスビル等にCO2の削減を義務付ける、5年間で約1400万トンの削減を達成した都市型キャップアンドトレード制度など、都がこれまで培ってきたノウハウを活かして、世界の気候変動対策をリードしてまいります。
先週には、新たな試みとして、都有施設のLED化など都の環境事業への投資の受け皿となります「東京環境サポーター債」の売出を開始したところ、初日に完売をいたしました。来年度には、このノウハウを、日本が国際的に遅れていると言われるグリーンボンドの発行に繋げて、環境投資の面でも世界に伍していきたいと考えております。
そして、都民が投資を通じて都の環境政策に参加する気運を醸成して、再生可能エネルギーやLED照明の普及、ヒートアイランド対策、食品ロスの削減等、世界に冠たる環境先進都市に向けました政策を大きく前へ進めていくための呼び水としていきたいと考えております。
〈中小企業のチャレンジを後押し〉
中小企業の海外展開も積極的に後押しをしていきたいと考えております。都はこれまでも、海外販路の開拓支援や、ASEAN地域におけます現地情報の提供、経営・技術の相談等を行ってまいりました。
一方で、スマートフォンを巡るグローバル企業同士の特許侵害訴訟の事例が示しますように、海外展開に当たりましては、特許・商標の取得、模倣対策等、知的財産に関する戦略の重要性は益々高まっております。
そこで、ニーズに合った新たな支援も検討しながら、海外へのビジネス拡大を狙う中小企業のチャレンジを強力にサポートしてまいります。
〈東京発・イノベーションを生み出す〉
IoT、AI、これらに代表される新たな技術が持つ可能性を引き出し、さらなる成長へと繋げていくことも必要であります。
医療機器産業の分野では、日本橋に開設した「東京都医工連携イノベーションセンター」を拠点に、ものづくり中小企業と臨床機関・医療機器メーカー等との連携を進めております。先般視察いたしました「産業交流展」では、中小企業の優れた技術を、世界に見据えた独創的かつ革新的なビジネスに結びつける土壌が着実に整いつつあると感じたところであります。
競技用の車椅子にも試乗いたしましたが、こうした分野で世界に誇る製品を開発していくことは、2020年に向けたパラスポーツ発展の後押しとなり、かつ、その後の超高齢社会におけます成長戦略の一つとなることでありましょう。
また、既存の枠組みやルールに囚われない発想で、新たな価値を提案する起業家を数多く輩出することも大切であります。
来月には、創業希望者が気軽に利用でき、ワンストップでの支援を受けられる拠点を丸の内に開設をいたします。国際金融センターを目指します大手町から兜町の地区、ライフサイエンスの拠点化が進みます日本橋、そして、中小企業のオンリーワンの技術力。
こうした強みに起業家の発想力をプラスをしながら、東京からイノベーションを次々と生み出して、日本全体の成長を牽引してまいりたいと考えております。
〈東京ブランドを磨き上げ、インバウンドを増やす〉
もう一つ、成長戦略の重要なキーワードが、東京のブランディングでございます。東京のブランドを国内外に効果的にPRするにはどうすればいいのか。これまでの取組を検証しまして、そのあり方について議論を始めております。
また、伝統的な産品や匠の技を護りながら、これらを新しい切り口で活性化をしていく。東京ブランドとして育てて発信していく。そのために、今月、フランスのコルベール委員会を参考といたしました新たな会議を立ち上げます。各界の有識者と共に、東京の魅力を発信する方策を検討してまいります。
多摩・島しょ地域にも、東京ブランドの種がたくさんございます。
先月、フラッグツアーのイベントに合わせて訪問いたしました三宅村、御蔵島村では、バイクレースやイルカウォッチングといった際立つ特徴が、観光地として大きな魅力となっておりました。10月に訪れた小笠原村、奥多摩町、檜原村も同様です。それぞれが持つ個性こそが強みであり、ブランドとなり得る魅力なのであります。
インバウンドの増加に向けては、国際会議などMICEの誘致も効果的であります。国際的な誘致競争が激化する中で、海外プロモーションを強化するとともに、特別感を演出できるレセプション会場である、いわゆる「ユニークベニュー」として都立の美術館や庭園等を活用していくなど、都内でのMICE開催の増加を図ってまいります。
そして、これらの取組を観光振興にしっかりと繋げるため、有識者の優れた提言もいただきながら、新たな施策を体系的に盛り込む「東京都観光産業振興実行プラン2017(仮称)」の策定を進めているところであります。
4 おわりに
さて、「現状維持は衰退である」という言葉、多くの方々に語られています。我が国は、長きにわたって「現状維持」に安住し続けてきたのではないでしょうか。「現状維持」はその時には快適ではあります。しかし、それは社会、経済、そして政治の後退をもたらすのみであります。
多くの都民の皆様方から「改革を進めよ」との声をいただきますのは、「現状維持」では立ち行かなくなる、「このまま」では衰退や後退でしかないと肌で感じておられるからでありましょう。
議会におかれましても、様々な改革へのご議論が始まろうとしていると私は聞いております。2020年とその先の明るい東京の未来に向かって、改革を進める意欲溢れる皆様と共に歩んでまいりたいと思います。