東京都発表によると、平成27年度採用試験では、前回の東京五輪前の1962年以来となる大規模な採用が予定されています。
行政・事務区分は150人増、技術区分は昨年度に引き続き高い水準となる390人
都人事当局は、「2020年東京オリンピック・パラリンピック大会準備、福祉先進都市の実現等、都政における課題はますます高まっています。このため、事務の採用予定者数は、昨年度に比べ150人増の770人」としています。
全体として見れば採用のチャンスが高まったと言えます。もっとも、当ブログ記事『都庁面接試験の難易度』でイメージ図を紹介していますが、合格ラインのボーダー付近は大勢の受験生がひしめいています。
採用者数が多少増えても、例えば合格ラインが70点から68点に下がるくらいで、それほどレベルは変わりません。採用されやすくなったと油断するのは危険です。
1類B(一般方式)の場合、採用予定者数が438人から484人に増加していますが、昨年度の実際の受験者数(3,643人)から考えると、上位12%に入るか、13%に入るかの違いにすぎません。
むしろ、オリンピック開催を控えて採用増ということで就活生の注目を集め、(採用当局の狙いどおり)都庁志望者が増加すると、合格レベルのボーダーが昨年度より上がる可能性もあります。
特別な試験対策が不要な1類B(新方式)の規模を拡大し、「行政」は倍増の100人。(土木・建築区分は昨年度とほぼ同数)
行政(事務)区分の採用予定者数は以下のとおりです。全体的に増員されますが、区分によって濃淡があります。
1類A 60人→90人(50%増)
1類B(新方式) 50人→100人(100%増)
1類B(一般方式) 438人→484人(11%増)
3類 45人→55人(11%増)
この数字が示唆するのは、「新方式」を通過してくる人材が、組織の中で最もニーズが高まっている人材タイプだということです。増加率だけでなく、人数自体の伸びも最大です。
次いで、1類Aの高度な専門性を有するタイプの人材です。
このことは、1類B(一般方式)の受験を予定している方に無関係ではありません。どんなタイプの人材を欲しているのか、優先的に採用したいのか、当局からのシグナルとして受け止める必要があります。
当局が「一般方式」や3類を軽視しているということではなく、その区分の中でも、ある特性を備えた人材を優先的に採用したいということです。
例えば、「一般方式」で課される筆記試験でも十分な成績を上げながら、「新方式」でも合格できそうな人材としての特性が見受けられれば、それは優先的に採用(高得点を与える)となるでしょう。
「一般方式」の区分は採用人数が多いこと、また、学部卒程度の試験内容ということで、そこまで高い専門性が求められていないこともあり、採用に至る人材タイプも様々です。その中には、発想力や表現力に優れるタイプ、専門知識に優れるタイプなど、様々な強みを持つ(あるいは、これから強みにできそうな)人材が混在しています。
「一般方式」の場合は筆記を通過することが前提ですから、ある程度は人材タイプの幅が絞られますが、それでも合格者の中で各人材の強みでタイプを分ければ、一定の割合ずつに区分できます。
筆記・面接という表面的な試験制度は変わっていなくても、採点にあたっての視点や傾斜配分を変えれば、最終的に採用される人材タイプの濃淡を変えることは可能です。この点でも、「新方式」や1類Aの採用増に重点が置かれていることに留意して頂きたいと思います。
「新方式」の採用増については、これまでに「新方式」で採用された職員の活躍状況、配属先からの評判などを踏まえて、採用当局も自信を深めたということです。
もっとも、都庁の経験者採用(民間企業等からの転職)として、かつてはジェネラリスト採用(特定の専門知識は不要)が行われていました。これらの人材の採用後の活躍状況を踏まえ、「新方式」導入の時点から当局の勝算は立っていたはずです。これまでの2年間、試運転をしていたということでしょう。
また、実質的には「行政」区分しか増員されていないのに、「1類B(新方式)の規模を拡大し」と当局があえて言及している点には、「新方式」のさらなる増員を既定路線化しているように見受けられます。
平成27年度採用に関しては行政区分の「一般方式」と「新方式」の比は約5:1ですが、将来的に2:1くらいになっても筆者には違和感はありません。
ただし、「新方式」で採用された場合でも、職務で必要な法律等の専門知識を入都後に身に付ける必要があるのは変わりません。この点の意欲や素養をチェックする体制が整うことが、「新方式」を一層拡大していくための条件となるでしょう。
現状、都庁(公務員)が第一志望と決めている方にとっては、「一般方式」のほうが「新方式」よりも取り組みやすいと言いますか、極論すれば受かりやすいと感じている方が大勢だと思います。裏を返せば、「新方式」のほうが競争が熾烈である。
採用当局の視点では、そうした熾烈な競争を潜り抜けてきたタイプの人材をもっと欲しいはずですので、「新方式」の枠を拡大するのは自然な流れです。各方式の「合格しやすさ」が概ね均衡するまでは「新方式」枠の拡大が続くと予測します。
採用総数を増やし続けることはできませんから、いずれは「一般方式」を減らし、その分を「新方式」に配分する局面を迎えるかもしれません。
なお、技術区分は、「一般方式」「新方式」とも採用予定人数は昨年度水準に留まっています。近年、行政区分以上に人材獲得に力を入れていたこともあり、これ以上は拡大せず、ひとまず様子を見るようです。
また、建設系企業を中心に採用が活発化しているため、理系学生が民間へ流れているとの話もよく聞きます。目下の情勢では無理に採用数を増やせないという事情もあるでしょう。
技術職の場合、その強みは何と言っても専門性にあります。発想力などの基礎的な人材力がどれだけ高くても、専門性に劣る人材では技術職としての活躍の幅が限られます。したがって、専門性のレベルをしっかり検証できる制度が整わないと、「新方式」の採用枠を闇雲に広げることはできません。
逆に、技術区分で「新方式」を受験する方は、採用当局が専門知識の検証に不安を感じている可能性があることを念頭に、こうした不安を払しょくするという視点を持って臨まれるとよいでしょう。
どのような姿勢で採用試験に備えるべきか考えるにあたっては、受験生の視点では、採用試験を実施している人事委員会が前面に出ることが多いと思います。
もっとも、人事委員会は、都庁の採用活動全体の中では、受注者の立場です。人材育成の方針や職員の年齢構成などを含む中長期的な人事戦略に基づき、どんな人材を、何人採りたいか決めているのは総務局です。
いわば、「こんなタイプの人材を、何名確保できるように、適切な採用試験の制度を整えて、実施をお願いしたい」と総務局が発注している形です。
人事委員会は総合成績順の「採用候補者名簿」を作成し、これを総務局サイドに提示することで、いわば発注者への納品が完了となります。(この点の流れは、試験案内にも掲載されています)
人事委員会の業務の概要紹介には「人事委員会は、有能で意欲のある人材を確保するために、職員の採用試験を実施しています」とあります。
一方で、総務局人事部の業務概要には「人事部は、任命権者としての知事が権限を有する職員の任免・服務・分限・懲戒・組織・定数・人材育成等、人事管理全般についての企画、実施、調整の事務を行っています」とあります。
単に腕試しで筆記に合格できればいいというのでなく、最終合格・採用までを目指すのであれば、人事委員会が作成した試験問題に向き合うだけでなく、総務局が確保したい、育成したいと考えている都庁職員の人材像にも向き合う必要があります。
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