来年度の都庁受験に向けて-併願先にメリハリを

まず、時間・集中力という最も重要な資源をどう配分するかが大切です。このため、併願先については、やはりある程度、対策のメリハリをつけるべきです。

志望度が高く受かるつもりで受験する志望先、手の届く可能性がある志望先、滑り止めの志望先など、なるべく早い時期に決断が必要です。

「決断」と申し上げたのは、「受けてみれば何とかなるのではないか」という期待を抱いてしまうことが少なくないためです。

現時点での実力では難しい組織を目指す場合、逆転を期すことになるため、他の受験生よりも時間・集中力を費やす必要があります。

「受かるかどうか分からないのだから」という認識で、片手間でしか取り組まなければ、実力の逆転には至りません。その場合、片手間で費やした時間が無駄になるおそれがあります(併願先の試験科目と重複しているのであれば問題ありませんが)。

現時点では難易度の高い組織を目指すのか、実力的に手の届く組織に確実に合格することを目指すのか、どちらを本命に据えるかは決断が必要です。試験対策の時間も無制限ではないため、戦略の重要な部分となります。

その際、万一の場合に浪人が可能か、必ず就職する必要があるかなど、どの程度リスクを取れるかは個人の事情にも左右されます。より難易度の高い組織を第一志望とすべきとは、必ずしも言えません。

公務員試験の場合、ある程度は科目が共通していますが、記述式や論文など、その志望先に特化した対策を行ったほうが有利になることも少なくありません。

国家公務員、都庁、政令市など、複数の併願先の準備を均等に行っている受験生よりも、都庁の試験科目に特に時間を割いて対策を行っていた受験生のほうが、スタート時点での実力は劣るとしても、本番での得点を伸ばすことが多いでしょう。

「たくさん受験すればどれかは良い結果が出るのではないか」と考えるのはリスクが高いです。どの併願先にも、その組織を第一・第二志望と考えて対策を練ってきた受験生がいます。第三・第四志望の認識で臨みながら、真剣に対策を練ってきた受験生を上回るには、相当な実力差が必要です。

日程の都合で併願できませんが、都庁と特別区のどちらを受験するかも、早い時期に決めるべきです。潜在能力が同じ受験生同士で比べれば、早い時期から都庁(または特別区)に特化した対策をしている受験生のほうが有利です。

例えば、事務(大卒)区分で見ると、東京都では、専門筆記は10分野の中から3つを選択回答です。法律科目のみで固めることもできますが、記述式です。
「外国人の人権について説明せよ(憲法)」など問いもシンプルで、何をどの順で記述すべきか誘導もありません。外国人の人権と言えばこの論点とこの判例と自分で整理できるくらい準備していないと十分な回答はできません。
また、出題数が少ないことから、捨て問や他の問題で挽回することが困難です。選択予定の分野に関しては、何が出題されても一定水準の回答ができるように穴をなくしておく、それだけ深く学んでおく必要があります。

一方、特別区の専門試験は択一式です。知識が多少あいまいでも消去法で正解にたどり着ける面もありますが、法律、経済、政治、経営など、選択回答制であることを考慮しても8分野(40題)を網羅する必要があります。
(なお、ひと昔前までの都庁採用試験では、特別区と同様の専門択一に加えて、専門筆記(1題を選択)がありました)

また、施策に関する論文試験で求められる視点も異なります。

筆記試験においては、早い時期から都庁(あるいは特別区)に特化した対策に時間と集中力を注いでいた受験生のほうが有利です。

都庁、特別区では、試験の申込みから筆記試験まで、概ね2か月。受験率はそれぞれ6割と7割です。直前期まで決めかねている受験生も少なくありません。

初めのうちは、どちらが取り組みやすいか、どちらが勝算が高そうか、並行して勉強し試す必要もありますが、あまり長引かせると時間と集中力が分散してしまいます。なるべく早い時期に決断を行い、一方に注力する(少なくとも軽重を決める)ほうが、よい結果につながりやすいと考えます。

受験時期が異なる併願先の場合も、通年で対策を行う場合はメリハリ、優先順位づけが必要です。どれも均等に行ったのでは、すべて中途半端となるおそれがあります。本命としてその試験に特化した準備を行っている受験生には、簡単には勝てません。

普段の活動や、併願先の準備で、時間が足りないかもしれません。十分な対策ができると確証のある方は独学で問題ありませんが、予備校のコースや受験対策本の利用で効率化を図る、いわば「ノウハウや時間を買う」のも選択肢の一つでしょう。

「何か月前から始めれば大丈夫か」と問われることがありますが、前回の記事で紹介したとおり、特に行政(事務)区分では競争倍率5~9倍、合格する人は5~9人に1人と少数派です。「何か月前から始めれば大丈夫だ」などと、一般化することはできません。

大学で専攻し既に知識があるか、選択予定の科目に苦手意識があるか、一日に何時間、どれくらいの集中力で勉強できるかなど、個別の事情に左右されます。

例えば、期間は同じ6か月でも、一日あたり4時間勉強できる人と、6時間勉強できる人とでは、対策に費やす総時間が50%も異なります。
また、同じ4時間でも、講義を漫然と聞いているのと、講義を聞きながらメモを取ったり、線を引いたり主体的に取り組むのとでは、密度が異なります。

他者のアドバイスを参考にしながらも、最終的には、自分の得手、不得手、行動特性を最も詳しく把握している自分自身で判断する必要があります。

筆者のアドバイスとしては、電車に乗っている時間など隙間時間を活用して、今から少しずつでも始めるのがよいということです。そうすれば、知識も徐々に増え、何が得意で何が苦手か把握し、それをもとにスケジュールを再検討できます。

試験の何か月前から急に始めよう(それまで先延ばしにしよう)というのはハイリスクです。これまで机に向かう習慣があまりなかった方が、ある日を境に一日8時間、集中力をもって勉強するのは困難です。それを前提に組み立てたスケジュールは計画倒れに終わる可能性が高いと思われます。

今の1時間も、直前期の1時間も、学習に充てられる量は同じです。もっとも、直前期になると、余分に1時間を捻出するのは難しくなってきます。早めに取り組み、もう大丈夫だと確証が持てた段階でペースダウンするほうが安全です。

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