まず、競争倍率については、以下の表のとおり全般に昨年度より低下しています。この点は、様々な報道があったとおり、公務員試験全般の傾向のようです。
※ 倍率:1次試験受験者数/最終合格者数
次に、最終合格者数と採用予定者数との関係です。例年、内定辞退を見越して、採用予定者数より多めに合格させますが、平成28年度はその度合いが顕著です。近年の推移は以下のとおりです。
※ 最終合格者数/採用予定者数
民間企業の採用活発化に伴い、内定辞退の増加という要因もありますが、実質的には今年度の採用予定者数を計画より増加させたのだと考えます。
平成28年度試験での採用予定者数(365名)を当局が決定した時点では、ここまで公務員志望者数が減少すると考えていなかったのでしょう。当局はこの傾向が当面続くと考え、今年度、採用できるうちに多めに人員を確保しておこうとの趣旨と考えられます。
1類B一般方式(最終合格者数550名)では、例年の基準では450~480位程度までが合格でしたが、480位と550位とで、実質的な実力(総合得点)は遜色ないため、当局としても採用する人材層に影響はないと考えたのでしょう。
なお、新方式は、多めに合格させる度合いが一般方式と比べて例年少なめです。
民間企業との併願を前提とする新方式こそ、辞退者を見越して多めに合格させるべきと考えてよさそうなものです。しかし、実際には、他の区分よりも厳選して合格者を選別している印象です。
特別な準備なく受験できることもあり、資質や志向のばらつきが大きいため、合格者を単純に増やすことができないと考えられます。
ところで、全国的に見ても、近年、公務員試験の倍率が低下傾向です。民間企業の採用活発化が主な要因とされています。
確かに、従来、「試しに公務員試験も受けてみる」「民間がダメだったら、公務員も」と考えていた層が、公務員試験を受験しなくなったかもしれません。
もっとも、都庁が第一志望の層など、都庁受験に向けて真剣に備えている層は従来とそれほど変わらないと考えられます。実質的に合格を争っている受験者層への影響は少ないでしょう。
人事当局の視点では、できるだけ大勢の受験生の中から選抜するのがベストですが、狙った人材を一定数確保できているかという点では、短期的にはそれほどの心配はないでしょう。
ただし、中期的には、従来は都庁への就職を検討していたであろう層が、次々に民間企業へと就職していく先輩たちの姿を見て、就職先候補として都庁や公務員を検討すらしなくなる風潮が生まれるおそれがあります。この点は人事当局も心配しているはずです。
広告を増やしてPRするだけでは根本的に解決しません。民間企業での採用活発化が続く中で、意欲ある人材の都庁受験を促すには、中央省庁の「総合職」のような区分を設け、政策立案や大規模事業の統括を中心に携わるキャリアパスを提示する必要が生じるのではないでしょうか。
一方、景気には必ず波があります。遠くない将来に民間企業での採用引き締めが行われた場合は、また公務員試験が人気化するかもしれません。
学生の方にとっては、潜在的なライバルが民間企業に流れている今は、都庁に就職するチャンスが広がっていると言えます。
もっとも、競争倍率が低下したとはいえ、1類A事務は9.2倍、1類B行政(一般)は4.9倍です。1次試験受験者のうち、最終合格に至るのは、前者で9人に1人、後者で5人に1人と、合格する人のほうが少数であることに変わりありません。
この点が示唆するのは、「他の人もまだ勉強を始めていないから大丈夫だ」などと、受験生の多数派を基準として戦略を立てるのはリスクが高いということです。
さらに言うと、都庁受験を検討したものの、最終的に受験しない人も珍しくありません。申込者のうち、実際に1次試験を受験する人の割合は例年6割程度です。(特別区の試験日程と重なることも要因ですが)
周りの都庁受験予定者の様子を見て、自分もこのくらいでいいと安易に安心すべきではありません。都庁の採用試験にかける思いの強さ(志望度)には個人差があります。
来年度、あるいはそれ以降に受験予定の方は、他の人が着手していない時期から始めてリードする、一般的な公務員受験生が苦手とする領域でも経験を積む(強みに育てる)、といった視点で取り組むことをお勧めします。
通年学習から直前期対策までを見据えた