合格後、入都までに準備すべきこと

かつて筆者自身、配属局決定後の個別面談で、(やる気を見せようとして)入都までに勉強しておくべきことを尋ねたところ、こう言われました。

「法律の知識など、仕事の勉強は都庁に入ってからで構いません。それよりも、仕事に就いたら長い休みはなかなか取れません。長期旅行をするなら今のうちですよ。」

その時は、都庁は意外と柔らかい組織だなと驚きましたが、長期旅行が難しくなるのは本当です。これは改めて後段で述べます。

合格後、入都までの準備
まずは、真面目な話題から。いずれは都庁の中枢で政策に携わりたい、幹部になりたいという方のスタートダッシュに役立つものを紹介します。

施策や取組の中身に関する知識は、具体的な配属先(〇〇課△△係)が発表されてから、つまりは4月1日以降でも大丈夫です(社会人採用で即戦力を期待されているケースを除く)。

局内でも仕事の中身は部署によって大きく異なり、部が異なれば扱う分野がかなり違ってきます。課内でも、係ごとに全く異なる仕事をしているケースは珍しくありません。

局事業の概要は各局の研修でも学ぶはずです。事前に知識を詰め込んでおく必要はありません。

なお、これからまさに都庁に入る方ですら上記のとおりですから、受験生の方に細かな都政の知識が求められていないことは言うまでもありません。「この人材なら、入ってから勉強すれば、職務に必要な知識やスキルは習得できるだろう」と人事当局が納得できる基礎力や意欲があれば十分です。

これから入都される方に準備をお勧めするのは、思考や行動のフレームワークです。自分なりの視点(切り口)や思考順序、他者をうまく巻き込むことを意識している職員は、早い時期から有望人材として注目される可能性が高くなります。

入都1年目は各種研修が行われます。座学だけでなく、グループワークや発表の機会も数多くあります。
研修は選別を目的にしているわけではありませんが、良い意味で目立つ職員が報告書に特記されたり、本庁から視察に来ている職員の目に止まることはあります。

もちろん、それだけで幹部候補となるわけではありませんが、優秀な若手職員の供給を望む本庁から見て、今後の注目対象になるでしょう。

課題解決やチームワークに関しては、思考、行動のフレームワークを持っているのと、何となくやっているのでは、相当な差が生じます。

新人研修でもこうしたフレームワーク概要について学ぶ機会はあります。ただ、そこで初めてやっている職員と、既に予習・練習をしてきた職員とを比べれば、いざグループに分かれて課題を解決してみましょう、プレゼンを準備しましょうという時、グループ内での働きぶりが断然違ってきます。

都庁でキャリアを築くと意を決している方は、以下の項目についてビジネス書籍(例えば「外資系コンサルタント流の○○」など)で予習しておくことをお勧めします。
(「ひょっとしたら将来は転職するかもしれない」という場合も、都庁でしっかりしたキャリア(転職先に凄いと言ってもらえる実績・経験)を積んでおいたほうがよいです)

1.会議ファシリテーション
新人研修では、グループに分かれてディスカッションを行う機会は数多くあります。また、実際の職場でも、会議や打合せの機会は頻繁です。苦手意識を払拭し、強みに変えておきたい能力です。

2.戦略フレームワークの思考法
研修で与えられた課題や、配属先が抱えている課題について、原因を分析し、解決策を検討するためのフレームワーク(視点や手順)を身に付けておけば、あの人は鋭い、デキるという評価につながります。

また、希望の部署に異動する、昇任試験に合格する、ということに関しても、自分が置かれた状況を基に戦略的に考えることは重要です。

3.プレゼンテーション
新任研修では、人前で発表する機会は頻繁に訪れます。また、入都2年目以降は、研修講師や、研究成果発表を任されることもあります。慣れていない場合は、苦手意識を払拭しておきたいスキルです。

また、通常業務の場面でも、上司への説明(説得)はプレゼンテーションの簡潔版といえます。

4.チームワーク(特に上司との協働関係)
都庁では勤務評定を付けるのは課長です。媚びる必要はありませんが、「安心して仕事を任せられる」と最初の上司から信頼を得ることが、その先につながります。

また、仕事の締切りに対する感覚など、上司と部下でズレていることもよくありますので、上司の視点を知っておくことは有益です。

5.人を巻き込む仕事の進め方
職場の新任職員でプロジェクトチームを組み、ある課題の解決に取り組んでほしいとオーダーされることがあります。その際、「できるだけ多くの職員を巻き込みながら」という注文が付くのはよくあることです。

また、仕事の規模が大きくなるほど、関係する部署や職員、外部の関係者が多くなります。組織のキー・パーソンを目指す方は、ぜひ強みにしておきたい能力です。

長期旅行は今のうち
『都庁は休暇を取りやすいか』でも言及しましたが、夏休5日間と前後の土日を合わせて、9連休までは取得可能です。

連続休暇の取りやすさは部署や時期によりますが、夏休は4連休と5連休に分けて取りたいという職員もいますので、係内でうまくシフトの段取りをすれば9連休までは大丈夫です。

しかし、それ以上の期間、例えば2週間連続で休みたいとなると、事実上不可能です。(病気などの場合を除きます)

大陸横断のような長期旅行をしたい場合は、入都前にしておくとよいでしょう。次にそういう機会が来るのは、大抵は数十年後、引退した後になります。(都庁だけの話ではなく、ほとんどの組織でそうです)

また、ニューヨーク、ロンドン、パリ、シンガポール、香港、上海などの大都市を、街の活気、街づくりや都市問題の観点から実際に見てくるのは、都庁でのキャリアで大きな財産になるでしょう(受験生の場合は、面接でも使えるネタになります)。

政策立案部署にいると、国際比較の話はよく出てきますので、海外諸都市の実際を目にしていれば具体的な姿をイメージしやすくなります。

上記は一般的な職場の場合ですので、非常に忙しい部署に配属された場合は、一週間通して休める機会もないかもしれません。

仕事に就いたらなかなか休めないことを想定して、旅行、免許取得など、まとまった時間が必要なことは入都前に済ませておくことをお勧めします。

入都後は、はじめが肝心
都庁で何を目指すかは人それぞれですが、中枢部署、出世を視野に入れるなら、特に最初の1、2年目での頑張りは大切です。

困難な課題にどう対処する人材か、他人をうまく巻き込めるか、人事当局から見れば、2年もあれば十分な判断材料が出てきます。

なお、入都後の当面は同期は横並びということはありません。職位は同じでも、どこの部署で主任や課長代理を務めているかで、将来の期待度は異なります。ということは、その前の主事の段階で、誰をどのような部署の主任に据えるか、選抜は始まっているということです。

組織の外から見ると、こうした部署間の違いまではなかなか把握できませんから、当面は横並びで、主任試験の結果で急に差がついたように見えるかもしれません。詳細は当ブログ記事『選抜は入都1年目から始まっている』をご参照ください。

本庁コースや出世コースに乗ってから、「やっぱり自分には向いていない」と途中で降りるのは、本人の意志で可能です。しかし、入都後数年が経過してから、やっぱり中枢部署で働きたいと思っても、その時点ではかなりハードルが高くなります。

都庁では、キャリアデザインは本人の意志に任されている部分が大きいため、なるべく早い時期から明確にしておくことをお勧めします。

大組織ですから、本当は優秀な人でも淡々とやっているだけでは、大勢の同期の中で埋もれてしまう可能性があります。

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