一見分かりやすい構図で、就職先を選択する側の視点としては理解できますが、「自分は公務員が向いているから都庁を志望した」というのは、説得力を欠きます。
「公務員向きの人材とはどのようなものか」「民間企業で求められる人材と何が違うのか」と問われると、面接官を納得させるのは非常に難しいでしょう。
「自分は公共心が強い」と言っても、民間企業でもCSRやコンプライアンスを重視している組織は珍しくありません。
NPO、NGO、いわゆるソーシャルベンチャーもあります。「公共のための仕事」=公務員とは必ずしも言えません。
実際には、いかにも公務員向き(民間に向かない)という人材タイプは、公務員の世界でも、優先的に採用されるわけではありません。本人が望めば民間でもどこでも務まるだろう、というタイプのほうが高評価です。
「自分は公務員に向いている」と主張する人材がいたとすれば、むしろ面接官としては、民間に向かないと考えている根拠を掘り下げたくなります。
そうすると、おそらく後ろ向きの回答をするほかありませんが、「民間企業での○○が苦手だから(嫌だから)、公務員に」といった困難を回避する姿勢が垣間見えると、採用当局としては、採用に向けて積極的に推すことはできません。
公務員と民間の比較から出発し、自分はいかにも「公務員向き」の人材であるとアピールしようとする戦術は危なっかしいと言えます。
個別に見れば、営業の仕事が務まるかどうかなど、適性が問われる職種もありますが、総じて言えば、採用試験の段階で評価される根本的な適性に関しては、公務員と民間でそれほど大きく変わる点はありません。
特定のポジションでの即戦力が期待される社会人の経験者採用でもない限り、特に新卒のポテンシャル採用ではそう言えます。
公務員の場合、試験日程や専門試験の準備の関係で併願数が限定されますが、民間企業の採用では、いくつもの内定を獲得する学生と、なかなか内定を得られない学生に分かれると言われます。複数の内定を得る人がいるのは、それらの企業の評価基準が似ているためです。
企業によって基準がまちまちであれば、特定の人がいくつもの企業から内定をもらうことはなく、もっと平準化するはずです。
一方で、組織人に求められる基礎的な資質・能力は共通するとしても、様々な資質・能力の中で特に何を重視するか(いわば傾斜配分)は、組織によって異なります。
「特にこのような人材を採りたい」、逆に「こういう特性が見える人材はアウト」という点は組織によって異なるでしょう。これは「公務員」という大きな枠でくくることもできません。
土台となる部分を押さえながら(大きな弱点を作らない)、志望する組織が特に何を重視しているか的確に把握し、自分にはそうした適性・能力が備わっていると相手にうまく伝わるよう工夫することが大切です。
さらには、「自分はこんなタイプの人材だ」と面接試験でアピールしたい人材像から逆算して、日々の活動や取組を改善し、実践することも大切です。日々実践しているのであれば、それはもう「作り話」や「誇張」ではありません。
都庁の場合、何年も前から「東京都の求める人材像」を公表しています。都庁組織の一員となることを志望する場合、「東京都の求める人材像」を満たす人材となれるよう、日々努力している姿が垣間見える必要があります。
採用試験の場面では、「これまでやっていなかった」人材は、採用後も(少なくとも自主的には)やらないだろうという視点で評価されてしまいます。
採用試験案内に「人物についての個別面接」とあるように、思考様式・行動様式(コンピテンシー)が検証されています。「入都してから頑張ります」と主張しても、その約束が守られるかどうかは、面接試験の場では検証できません。
誰かに指示されたわけでもなく、「都庁で仕事をするにはこんな資質が必要だ」「将来このような人材になるには、今からこのような能力を磨く必要がある」と自主的に考え、実践している人材が評価されるのです。
通年学習から直前期対策までを見据えた
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