都政の中で、今、最も注目を浴びているのはオリンピック関連事業です。
もっとも、これから都の職員となることを志望する方としては、一般の方がマスコミの情報を通じて見るのとは別の視点が不可欠です。
もちろん、都政にとってオリンピック開催は一大イベントですが、都の組織は本当に五輪一色になっているのだろうか、ということです。
組織体制の動きに関しては、都庁は代々、「外務長」(旧・儀典長)ポストに、外交に関する専門知識や見識を活用する趣旨で、外務省から人材を迎えています。
平成28年2月の外務長人事を見ると、新任の外務長は、これまでの同ポストを務めた方とは経歴タイプが異なり、外務省の中でも国際的なテロ対策に明るい方のようです。
都がこうした人材の派遣を要請したという点で、オリンピック開催に向けた布陣を整えていることがうかがえます。
この方が都庁に在職している間に、都としても安全面の向上で着実に手を打っておきたい、また、ノウハウや知見を吸収したいということでしょう。
都知事も、リオ五輪が終わると、世界の目は東京に集まると述べていますが、一方で、標的にされるリスクも考えてのことと思います。
オリンピック開催に向けた布陣を着実に整えているようです。
都政の中では、オリンピック関連事業が、マスコミに報道される回数も圧倒的に多く、都庁組織がオリンピック一色になっているように感じるかもしれません。
もっとも、オリンピック・パラリンピック準備局の職員定数は215名(平成27年度)にすぎません。
各局で大会関連事業(施設整備や関連イベント開催など)に携わる職員、大会組織委に出向している職員を合わせても、約3万8千人の都庁職員のうちの2%程度と思われます。
28年度は大会開催準備のために増員されますが、
オリ・パラ準備局で、準備体制の強化で11名、
大会関連施設等の整備で、都市整備局など5局合わせて60名、
教育庁で、五輪教育施策の促進で3名、
といった規模です。
五輪関連事業は、重要なイベントに違いありませんが、組織の中で、何をおいても最優先するといった位置づけではないことが伺えます。
都庁は大組織のため、規模感がイメージしにくいかもしれません.。例えば、従業員100名の企業で、「わが社は特に営業に力を入れている」と言いながら、営業担当者は2名しかいない、ということはありえません。
都庁においても、五輪開催準備はもちろん大切ですが、それ以外にも大事な事業がたくさんあるということです。
受験生の方も、論文や面接において、五輪一辺倒にならないよう注意していただきたいと思います。
五輪終了までの期間限定職員なら別ですが、都庁の採用試験は、主に「総合職」として将来の都政の中核を支える人材の選抜です。4年後の五輪よりもっと先を見据えている人材が求められます。
採用試験1類Bの論文試験の出題に、以下の文言があります。
平成26年 問題文
「2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催を踏まえ、東京を訪れる人の満足度をより高め、東京の魅力を世界に発信していくために」
平成27年 問題文
「将来にわたる東京の持続的な発展を実現するために」
平成27年 出題資料
「東京オリンピック・パラリンピック競技大会後も持続的な発展を遂げた東京の将来像」
東京の魅力を発信するため、また、これまで実現に時間を要した事業を推進させるための起爆剤として、五輪開催は貴重な機会ですが、これから都庁に入る若い方には、さらにその先を見据えてほしい、という人事当局からのメッセージです。
論文や面接で、何でもオリンピックに結び付ける受験生が多かったため、当局がクギを刺しているのだろうと推察します。
平成26年問題文の「開催を踏まえ」は心憎い表現です。「開催を控え」ではありません。
仮に「開催を控え」であれば、開催時期までの道筋を示すこととなります。
「開催を踏まえ」であれば、「五輪が開催されることに配慮しながら」議論を展開するという趣旨です。五輪開催をきっかけとして活用する視点は持ってほしいけれども、五輪開催そのものは出題の主題ではないということです。
それでも五輪開催までの議論に終始した受験生が多く、当局も業を煮やしたのか、平成27年度では、「将来にわたる」「大会後」と明記されました。
個別の論点を準備するだけでなく、都政全体の中での位置づけを意識している受験生であれば、こうしたミスを犯すことはないと思います。
都知事もかねがね、五輪開催は、東京を世界一の都市にするための通過点に過ぎないと述べています。既存の職員に対してさえそう話しているのですから、これから入る方の場合は尚更です。
なお、平成26年の1類B(新方式)のプレゼンシート作成問題では、以下のとおり当局の視点が丁寧に明示されています。
「オリンピック・パラリンピック開催を契機として、長期的な視点を踏まえ」
その点では、一般方式の問題文「開催を踏まえ」というのは、誤解を招きかねない曖昧な表現とも言えます。
もっとも、人事当局としては、一般方式を受験している方は、(民間との併願が前提の新方式受験者と比べて)都庁の志望度がかなり高いはずで、都政の中でのオリンピックの位置づけくらい分かっているだろうとの思いだったかもしれません。
もっとも、当局の思惑が外れたため、平成27年の試験では、「大会後のことも考えてほしい」と明記したのでしょうか。
極端な話をすると、五輪開催準備については、既存の職員に任せておけばいいわけです。
これから入都される方も五輪関連業務に携わる機会はあるかもしれませんが、数年後、一定の都政実務を経験し、組織の中でリーダーシップを発揮しはじめた時期には、もう五輪は終わっています。採用試験の場面で人事当局が見据えているのは、その先です。
オリンピック事業に携わることを希望するなら、大会組織委の事務局やIOC、JOCの事務局に就職することも考えられます。筆者の知人にも、イベント・マネジメントを専門とし、G20サミットや国際的なスポーツ大会の運営で世界各地を渡り歩き、現在はリオの大会組織委で勤務している方もいます。
この点からも、「オリンピックに携わりたいから都庁に入りたい」という主張は、ズレていると言わざるをえません。
まず都庁で中長期的に成し遂げたいことがあって、その途中過程として、機会があればオリンピック関連に携わりたい、それは自分の長期目標の達成にも役に立つだろう、という発想であればアリです。