公務員試験併願先の選択とリスク分散

「すべての卵をひとつのカゴに盛ってはいけない」と言われます。投資を一点に集中させると、リスクを分散できないという格言です。

一方、就職活動の場面では、数多くの採用試験を受けたとしても、必ずしもリスク分散につながりません。ひとつの試験に向けて費やす集中力、努力の量に応じて、合格の確率が変動するためです。
筆記試験の準備に時間を要する公務員試験においては、その傾向が顕著と考えられます。

たくさん受ければどれかは受かるだろう、と安易に考えるのは危険です。ある受験生にとっては併願先のひとつでも、別の受験生にとってはそこが本命で、入念な準備のもとに臨んでいるのです。

対策時間の総量が限られる状況で、労力、集中力の分散を避けるには、できるだけ早い時期に志望先を可能な限りで絞ることが大切です。その試験科目、出題形式に特化した対策に重点的に取り組むことが望まれます。

そのためには決断、思い切りも必要です。

現実には、試験が同日に行われる都庁と特別区で、それぞれ受験率が6〜7割程度と、直前期まで決めかねている方も少なくありません。

試験対策に割くことができる時間、潜在能力が同じとすれば、ある官公庁の試験に特化した対策に専念した受験生のほうが、どうしても有利となります。

以下は併願パターンを単純化したモデルです。
各受験生の総合的な実力(潜在能力)、受験対策に費やす労力の総量は同じとします。
数値は、集中力、勉強時間、志望先の業務研究などの労力を、どの志望先にどれだけ割り振ったかを示しています。
※ 併願順位や難易度については一般的なケースを前提としています。


受験生Aは都庁が本命ですが、チャレンジとして国家総合職も受験します。
また、都庁が残念な結果だった場合に備えて、横浜市も併願しています。

受験生Bも都庁が本命です。横浜市も併願しているものの、浪人してでも都庁に入りたいと考えており、都庁対策にほとんどの時間を割いています。

受験生Cは、都庁、特別区のどちらかを本命とする予定ですが、まだ決めかねているため、並行して準備を進めています。
もう少し勉強が進んでから得意科目を見極め、どちらを受験するか決定する予定です。
また、都庁/特別区が残念な結果だった場合に備えて、横浜市の準備も進めています。

都庁の受験に関しては、やはりBが有利です。
勉強を開始した時点での実力が劣っていたとしても、最終的には合格ラインを超える実力が身に付いていることは十分考えられます。
また、都庁が求めている人材像に焦点を当て、自分の日々の活動にも反映することができれば、面接試験でも評価が伸びやすいでしょう。
(もっとも、浪人・再受験が可能な状況にあるかなど個別事情に左右されるため、必ずしも一点集中を推奨するものではありません)

Aのケースでは、60%の力で都庁に合格できるか、ある程度の勝算が立っていないと危ういと言えます。
国家総合職を本命として取り組んでいる受験生も大勢います。そこに20%だけの力を注いで勝負に行くのか、あるいはそこは撤退して都庁にその分の力を注ぐのか、思案のしどころです。

Cのケースでは、最終的に、都庁と特別区のどちらかしか受験できません。上記モデルの中では、都庁受験に関して最も不利となります。本命に40%の力しか注いでいません。
就職活動において本来の実力を発揮できず、非常にもったいない状況です。

また、併願先の横浜市の受験においても、下図のように、横浜市が本命(都庁は腕試し)の受験生Dと競うこととなります。20%の力で勝算があるか、慎重な検討が必要です。


なるべく早い時期に都庁・特別区のどちらを受験するか決断し、受験生AまたはBの時間配分に近づけるのが望ましいでしょう。

あるいは、都庁(または特別区)と横浜市の双方で合格を狙うのが過剰な負担なら、例えば、都庁はチャレンジと位置づけ、横浜市の対策により多くの時間を割くといった作戦変更も考えられます。都庁の専門試験の準備まで手が回らない場合には、法律科目などの専門知識が問われない「新方式」で受験することも可能です。

より多くの時間を本命対策に費やすために、ひいては本命の合格確率を上げるために、ある併願先から撤退すること(勇気ある撤退)も大切な戦略と考えます。

なかでも、可能性は低いが受かるかもしれない併願先(自分の実力より難易度の高い併願先)の扱いには注意が必要です。

本命と並行して準備する場合は、本命の対策が十分間に合うこと、あるいは実力的に本命合格の可能性が高いことを確認する必要があります。チャレンジで受験する併願先と本命が共倒れになる事態は避けなければなりません。

現在1年生、2年生の方は、公務員試験対策に費やす労力の総量を増やすことで対応することも可能です。そのためには、「何か月前から取り組めば大丈夫だ」といった一般的な言説に惑わされず、平均的な受験生よりも早い時期から、少しずつでも着手することをお勧めします。

何事も早め早めに取り組む人材は、面接試験でも好印象です。組織や上司の視点では、そうした人材には安心して仕事を任せられるためです。

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