都庁の仕事は、どの企業タイプに分類されるか

就活生の企業選び、キャリア形成の指針として、ある経済誌が、企業の業務内容を3つのタイプに分けて紹介していました。

当該記事はこちらですが、都庁をはじめ公務員試験を受験される方の参考として、まず、その中で示された3類型の概要を紹介します。

タイプ① ある程の経験がないとできない仕事
長期間経験を積み重ねることが大切な、奥の深い仕事。入社早々に業績を上げることはできないが、10年仕事を続けるうちに大きな仕事ができる実力がつくタイプ。
銀行や総合商社、大手メーカーなど

タイプ② 人によって早い段階から成績に差がつく仕事
知識や経験は12年も積めば十分で、それよりも、個人のキャラクターや特性が重要な仕事。トップとそれ以外では、3~4倍も業績に差がつく。
証券セールス、外資系生保の営業など

タイプ③ 誰がやってもそこそこできる仕事
12年経験を積めば、誰でもある程度は業績が上がり、トップと平均とで業績の差はそれほど開かない仕事。
会社の技術力やブランド力が高く、誰でも同じように業績をあげられる会社、たとえば、自動車や家電製品などの、いわゆる「販社」(親メーカーの子会社)

この分類で言うと、公務員にはタイプ②はありません。タイプ①か③の業務です。

都庁の業務にあてはめると、典型的には、①は本庁業務、③は出先業務です。

タイプ①のような、本庁で政策立案や事業統括に携わる場合は、鋭い分析力、論理力など「頭の良さ」だけの勝負ではなく、世論の動向、知事・議会の方針、都民・企業への影響など総合的なバランス感覚が必要です。
また、ある政策に異を唱えている議員や団体の説得を試みるようなこともあるでしょう。理詰めだけではなく、「あなたがそこまで言うなら、今回は矛を収めましょう」と言ってもらえるような、いわば「人間力」、様々な問題に対処してきた経験値が求められる場面もあります。
こうした業務では、若手に全てを任せるということにはなりません。


出先事務所によくあるタイプ③の業務のほうが、若手の裁量に任せてもらえる範囲が大きくなります。こうしたタイプでは、長年培った経験や知恵も活用できますが、それ以上にフットワークの軽さや作業スピードのほうが結果につながりやすい側面もあります。

国家公務員や民間企業の場合は、総合職や一般職、本社採用や子会社、地域限定採用など、入口の時点で概ねの業務内容が分かれています。

この点から考えると、都庁の場合は上記全ての区分をひとまとめで採用しているようなものです。採用の時点では、仕分けされていません。

入都後の業績や適性、本人の希望などを考慮して、タイプ①の本庁で人事・予算、政策、事業統括に携わるタイプか、タイプ③の出先事務所で税の徴収や土地・家屋の評価など現場の業務を遂行するタイプに、職務経歴を重ねるうちに分かれていきます。

採用の入り口で分けている組織の場合は、希望する区分で入るための競争が厳しいかもしれませんが、一旦入ってしまえば、ある程度はレールに乗せてくれる側面もあります。
幹部候補採用の場合、本人が希望していなくても、激務でプレッシャーも大きい部署に配属される一方で、修羅場を切り抜けながら職務経験を積む機会を優先的に与えられているとも言えます。

一方、都庁の場合は、少なくとも若いうちはレールに乗せてくれることはありません。自分で切り開いていく必要があります。
組織に強制されないという点では良いのですが、自身が油断したり、易きに流れてしまうと、組織のほうで引っ張り戻してくれることもありません。

なお、先ほど「職務経歴を重ねるうちに、本庁タイプと出先タイプに分かれていく」と申し上げましたが、人事当局はそれほど長くは待ってくれません。「公務員はのんびり横並び」との印象を持っている方から見れば、都庁ではかなり早い段階で分かれていきます。

採用の時点が典型的ですが、若い時ほどポテンシャルを重視した人事です。しかし、職務経歴を数年重ねるうちに、これまでの業務経験と全く関連のない部署に異動することは少なくなっていきます。

例えば、採用後、出先事務所で5年間勤務し、主任試験に合格した場合、次の異動先は、これまでの知識や経験を活用できる、出先事務所の業務を取りまとめている本庁部署や、他局の出先事務所が有力と考えられます。

収入面に関しては、都庁の現状では、タイプ①と③、いずれでもそれほど大きく変わりませんが、将来は差が広がる可能性があります。都人事委員会勧告でも、職責、業績をよりきめ細かく反映した給与制度を進展させる方針が打ち出されています。

既に、部長級では基本給と管理職手当が、課長級では管理職手当が、本庁と出先で金額に差が付けられています。役職レベルが同じなら本庁でも出先でも重要度、困難度は同じと扱う「建前」は既に崩れています。

将来、課長級での基本給が、部長級と同様に、勤続年数ではなく職責(ポジション)に応じて定額となった時、都庁で年功序列型の給与制度が大きく崩れる号砲となるでしょう。
都庁では課長級の職員は30代半ばから60歳まで年齢層が幅広いですが、例えば同じ出先事務所の課長なら、35歳でも60歳でも給料は同額になるという状況です。

「職責をよりきめ細かく給与に反映」という方針のもと、こうした措置が課長代理(旧 課長補佐・係長)、主任、主事へと徐々に拡大される可能性もあります。

中央省庁では平成21年に「本府省業務調整手当」を導入し、役職者だけでなく係員レベルでも本省と出先で給与に差をつける方向に舵を切りました。

先述のとおり都庁でも、将来的には、同じ枠で採用された若手職員の間で、就いている職務の困難度が色分けされ、本庁か出先かで収入に差を付けられるかもしれません。ましてや年々差が開くとなると、格差が大きすぎ、同一の枠として扱うのが難しくなってきます。

せっかく難関試験を潜り抜けて都庁に入っても、いくら実力しだい、自己責任とはいえ、50代で年収500600万円に留まるケースもあるとなれば、リスクを感じさせます。退職金や年金も年収水準に応じて計算されるのです。

他の県庁や市役所が幹部候補としてのルートを明示してくれるなら、そちらへ人材が流れるかもしれません。

そこで都庁でも、業務内容と給与水準のリンクが進むにつれて、いずれは採用の入り口で分けて、幹部候補とまでは言いませんが、主に政策や事業統括に携わるルートでのキャリア形成を約束する区分を設けざるを得ないのではないでしょうか。

現状ではそうした入り口での仕分けはありませんが、入都後に、タイプ①的な人材とタイプ③的な人材へと段階的に分かれていきます。これまでは、業務内容の違いはあっても、役職が同じなら給与はあまり変わらない制度でしたが、これも徐々に、しかし確実に変わりつつあります。

つまり、キャリア形成、給与水準に関して、「組織として、ここまでは最低限保証する」という水準が下がり、個人の意欲、実力しだいの部分が増える方向です。

採用当局としては、タイプ①が務まるような意欲、特性を備えた人材を優先的に確保したいのが本音です。

都庁に入ってからどういうキャリアを歩むつもりか、具体的に自分の将来像をイメージできているか、受験生に一層問われるようになります。

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