面接官は、学校での実績をどう評価するか

学校を卒業してから20年も経過したような面接官にとっては、勉強やゼミ、部活がどれほど大変か、もはや実感はありません。

したがって、受験生がどれだけ熱心に苦労話を語っても、ピンときません。例えば、部活のキャプテンだったと言っても、どれだけの責任や権限があって、どれだけの利害を調整するのか、面接官にはあまり実感が湧かないのです。

体育会系の部活でキャプテンだったというのは、本人はもちろん、その世界に身を置いたことがある人であれば、詳しく説明しなくてもその役割や大変さは分かります。

しかし、面接官が体育会系の世界を知っているとは限りませんし、学校を卒業してからずいぶんと時間が経っていますから実感を失っているかもしれません。

あるいは、体育会系出身の面接官でも、自分自身の長年の経験から、学校の部活よりも仕事のほうがよほど大変だと考えているかもしれません。
学生時代に苦労したことを熱心に話したつもりが、「仕事はそんなもんじゃない」と一蹴されることもありますから、学生時代の苦労話で一点突破を図るのは危険です。

もっとも、仕事に就けば、体力的に、または精神的に苦労する局面は必ずあります。仕事を楽にこなせているようであれば、より難易度の高い仕事を上司から与えられます。苦労した経験や失敗を乗り越えた経験のある学生のほうが安心して採用できるのは事実です。

しかし、「部活のキャプテンでした。(どうだ、凄いだろう)」という態度が見えてしまうと、仕事なんて簡単だと軽く見ているのではないかと心配になりますし、人によってはやり込めたくもなるでしょう。

「それは大変でしたね」と言ってもらえるかどうかは相手が判断することです。受験生としては客観的に、部の規模や自分の役割、具体的な行動を説明することが大切です。

体育会で部員40人のキャプテンだったということなら、例えるなら、「部下が40人いる出先事務所の課長くらいの立場かな」などと置き換えることで、面接官としてはようやく役割がイメージできるようになります。
都庁での役割のイメージを基に、「あなたに反発したり、陰で文句を言う人もいたでしょう。どう対処しましたか」と質問をします。

ここでのポイントは、学生時代のエピソードを語る場合、それがどのように受け取られるか、面接官の視点を意識しておくということです。自分とは視点も価値観も異なるという根本を見誤ると、出発の時点でつまづいてしまいます。

採用試験での評価の視点は、学生時代に頑張ったこと自体ではなく、入都後は学生時代以上に頑張れそうか、これまでに身に付けたことを仕事に応用できそうか、能力・スキルをさらに伸ばせそうかです。学生時代に頑張ったご褒美として合格させるわけではありません。

資格試験の場合は、これまでの努力や成果だけを評価します。合格後に資格をどう活用するかは自己責任ですので、試験の実施機関はそこまで関知しません。

公務員試験の場合も、択一、専門記述と、資格試験と似た要素はありますが、あくまでも採用試験です。(職員側が望む限り)定年まで面倒を見るつもりで合格させますので、評価の視点は採用後のことに置かれています。

面接では、採用後の姿を推測する手段として、学生時代のエピソードを聞いています。繰り返しになりますが、過去の成果や苦労自体を評価しているわけではありません。

面接官も、学生時代のエピソードを通じて入都後の姿を判断しようと努めていますが、受験生のほうも、面接官がうまくイメージできるよう工夫しておく必要があります。

そのためにも、都庁の職員が日々の仕事で何をしているのか、業務説明会やインターンなど、いろいろな機会を活用して、把握しておくことが大切です。

ここがズレてしまうと、学生時代のエピソードを職務につなげてアピールしたつもりでも、「都庁ではそういう仕事の機会はほとんどありませんが、それでも都庁を志望しますか」と言われて、苦しい立場に追い込まれます。


以上は面接を中心に述べましたが、ここから少し論文について言及したいと思います。

役所に入ると、自ら文書を作成することはもちろん、文書を審査する立場になることもあります。文書の取り扱いからは逃れられません。専門記述や論文を書くのが苦手だという方は、早い時期に克服しておいたほうがよいです。

文書を作成する練習は、採用試験の対策以外でも、大学のレポートや試験の機会を利用できます。どの順番で記述するか、自分の意図が伝わる表現になっているか意識するだけでも、かなり違ったものになるはずです。

文書が苦手と自他共に認めるタイプは、役所の本流コースは難しいかもしれません。
自分は政策のアイディア出しだけをやっておいて、その説明ペーパーの作成は他人に任せる、ということはありません。

政策立案に関わる以上は、その政策の背景や意義を他者に納得してもらえるよう、自分で文書を作成することが求められます。上司や同僚のサポートは受けられますが、どこまで自分で作成できる力量があるかは、当然、評価対象です。

役所特有のロジックや言い回しなどもありますから、最初から完璧にできる必要はありません(入都時には基礎力が備わっていればよいのです)が、就職後は、上司や先輩の指導の下で、簡潔かつ厳密な文書表現を身に付ける必要があります。

また、将来上司の立場になれば、自分が添削する側になります。そのとき、文書が苦手だからと部下に任せきりにし、その結果、問題が起こると、責任を取るのはもちろん上司のほうです。

文書が苦手な人材が、重要な部署の管理職に抜擢されることはないでしょう。議会、マスコミ、都庁上層部などとの関係で、誤解を招くような表現などミスが多発すると大変です。

採用試験に関しても、文書作成能力が試される論文試験(いわゆる教養論文)をおろそかにしてはいけません。自治体によっては形式上実施しているだけのところもあるようですが、都庁の場合は、最初の昇任試験である主任試験の実施状況を見ても明らかなように、論文を重視しています。

都庁の採用試験では、平成25年度から論文の出題形式が変更されました(データ等をもとに、課題を抽出し、解決策を論じさせる方式)。この改正にあたって都人事当局は、記憶や知識だけに頼らず、自分で考える力のある人材と取りたいからだと表明しています。

このことから、論文の評価次第で合否が左右される配点をしていることが伺えます。仮に論文の配点が非常に低く、合否への影響が少ないのであれば、論文の出題傾向を変えたところで、最終的に合格する人材のタイプが変わることは期待できません。

また、現場で考えさせる出題をすると、回答が多様になる分、採点の手間が増えます。都庁はそれくらい真剣に、論文を通じて人材を選抜したいと考えているということです。(毎年同じような問題を出題して、事前に準備した作文を受験生に書いてもらったほうが、採点自体は楽です。そのかわり、差を付けるのが難しくなります)

公務員試験の出題範囲は多岐に渡ります。併願状況や他の活動との関係で、受験勉強の時間が十分取れないのであれば、択一、専門、論文と、最低限の準備でこなすのも仕方ありません。

もっとも、受験対策の時間が十分確保できるなら、入都後に活躍する姿をイメージしたうえでの準備をお勧めします。そのほうが結局は論文や面接での高評価につながり、合格の可能性も高まります。


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