若手に手厚くなる公務員給与

若手公務員の給料アップ、ベテランは給料、退職金ともダウン

人事院の給与勧告は、地方公務員へも大きな影響を与えます。平成26年度に実施された人事院勧告が示唆する地方公務員給与の今後について検証します。

官民給与の格差に基づく改定

「民間給与との格差を埋めるため、若年層に重点を置きながら俸給表の水準を平均で0.3%引き上げ。若年層は2000円程度の引き上げ」

若手職員については、単純におよそ2千円+地域手当分の月給アップです。これはボーナス、残業手当の単価にも跳ね返りますので、年収にして4万円程度の増加です。

3級以上の高位号俸については、引き上げなし」

引き上げ分が若手職員に重点的に配分された結果、係長級以上のベテラン職員(50代後半)については俸給表の引き上げはありません。後述の地域手当の改正措置と合せると、むしろ給料はダウンします。

経歴相応に役職が上がっていかないと、長年勤めるだけでは高い給料がもらえない制度へと徐々に移行しています。

「ボーナスを引き上げ(0.15月分)、勤務実績に応じた給与の推進のため勤勉手当に配分」

職員全体で見れば、ボーナスの支給額が0.15か月分増加します。
もっとも、勤務実績(上司の評価)によって支給月数が変動する「勤勉手当に配分」とありますので、全員が引き上げ分を享受できるわけではありません。

都庁でも、係長級以上で同様の成果主義が取り入れられています。都の人事当局としては、将来的に主任級まで対象を広めたいようです。

以上の人事院勧告の内容は、10月に行われる各自治体の勧告でも、ほとんどそのまま地方公務員の給与へ反映されるでしょう。

給与制度の総合的見直し

「地域手当の見直し(特別区内:18%→20%)。それに伴い、俸給表の水準を2%引き下げ」

地域手当の見直しに伴い、職員全体で見れば、まず俸給表の水準が平均で2%下がります。

今回の見直しで、地域手当が2%以上増えた地域については、現状より給料アップです。一方、地域手当の上昇が2%以下に留まった地域については、現状より給料ダウンとなります。

今回ダウンになる地域については、今までの給与水準がやや高すぎと人事院が判断したということです。基本的に、該当する地域の自治体では、国が示した水準に合わせることになるでしょう。そうでないと、なぜ国より高いのかと多方面から圧力をかけられます。

特別区内の勤務地については、俸給表が2%ダウンで、地域手当が2%アップですから、全体として給与は基本的に変わりません。しかし、ベースの俸給表が下がっているので、退職金の額にはマイナスに作用します。
都庁、特別区もこの改正を踏襲するでしょう。

一方、俸給表を平均で2%ダウンさせるにあたっては、「1級全体および2級の初任給に係る号俸は引き下げなし。3級(係長級)以上の高位号俸(50代後半層)は最大4%程度引き下げ」という措置が取られます。

これにより、若手職員については、地域手当の増加分、まるまる給与が増えます。

一方、ベテラン職員については、地域手当の増加以上に給料のベースが引き下げられますので、地域にもよりますが、結果的に2%程度の給与ダウンとなります。50代後半層の官民の給与差を是正する措置です。

なお、上位職層の審議官、局長級に適用される指定職俸給表については、平均改定率と同程度の引き下げを行うこととされていますので、地域手当とのトータルでは増減はありません。
管理職を目指すインセンティブの観点から、室長、課長クラスの管理職についても、引き下げ幅を小さくしているのではないかと思います。

一般のベテラン職員にとっては、俸給表の引き下げに伴い、退職金も4%マイナスになるのが大きいです。(今回の措置では、給料ベースの減少を退職金の支給月数の増加で補うといった調整もないようですので、単純減と読み取れます)

なお、国家公務員については、大幅引下げの対象は3級(係長級以上)となっています。一方、昇進試験制度のある都庁、特別区では、係長未満のベテラン職員も大勢いますので、3級未満のベテラン職員も大幅引き下げの対象にされるでしょう。

昇給カーブのフラット化(現状に比べ、若手の給料を上げ、ベテランの給料を下げる)については、人事院も今回の措置で終わりとは考えていないようですので、これからも若手職員の給与水準が上がる一方で、単に長年勤めるだけでは給料が上がりにくい仕組みへと変わっていきます。

つまり、同じ職務内容、同じ成果であれば、勤続年数に関係なく、同一の賃金をもらう方向に近づきます。

民間ほどシビアではありませんが、給料に対する考え方は、職員の生活保障という観点から、仕事の成果に対する報酬という観点に徐々に切り替わってきました。
このため、国家公務員も地方公務員も、生活保障の観点で支給されていた扶養手当や住宅手当は少しずつ削られています。(全国転勤のある国家公務員の住宅手当は別ですが)

全般に、公務員の仕事はほどほどの大変さで、誰でもそれなりの給料がもらえる仕事でした。「ほどほどの大変さ」は当面、変わりそうにありませんが、「誰でもそれなりの給料がもらえる」については、間違いなく変わってきています。

これから公務員になる方は、その前提で就職後のキャリアパスを選択しなければなりません。ただ、これから就職する方はその覚悟をする機会があるだけ幸運です。

「本府省における人材確保、若手職員の処遇改善のため、本府省業務調整手当を、係長級は俸給月額の6%(現行4%)、係員級は4%(現行2%)に引き上げ」

本省勤務の職員は、年中、国会待機などで夜中(明け方)までの勤務がありますので(特に若手職員ほど)、大変さに報いるという趣旨で、残業手当とは別に、本府省業務調整手当が支給されています。なお従前から課長補佐級には9.44%が支給されています。

都庁でも本庁と出先では忙しさがかなり違いますし、大して給料が変わらないなら楽なほうがいいとあえて出先を選ぶ職員もいますので、本庁手当があってもいいかと思います。もっとも、都庁本庁は霞が関ほどの大変さではありませんので、残業手当が支給されれば十分とも言えます。

昇給制度の運用について「長期にわたる地道な職務貢献のように短期の評価に表れにくい要素を織り込むなどの運用ができるよう、基準の改善を図る」

今後の検討課題として挙げられていますが、役職で報いることが難しい一般職(いわゆるノンキャリア)職員の貢献に報いる趣旨と思います。出世の面ではキャリア職員との差が大きいノンキャリア職員のモチベーション向上策と言えます。

都庁の場合は、採用の入り口で幹部候補かどうかが決まっているわけではありませんので、国に比べればこうした運用の必要性は薄いです。都庁の場合、(当局から見て)「長期にわたる地道な職務貢献」があれば、それなりの地位と給料が付いてきているはずです。

もっとも、人事院勧告では50代後半層の給料をあえて下げていることから、単に長年勤め上げただけでは「長期にわたる地道な職務貢献」として給料を上げてもらえるわけではなさそうです。

なお、人事院勧告は、制度上、国家公務員の給与に関するもので、地方公務員に直接は関係ありません。

しかし、ほとんどの自治体では、人事院勧告に準じた内容で、各人事委員会の勧告が行われます。理由は以下の3点です。
① そのまま使えば楽だ
② 議会や住民に説明しやすい
③ 国に睨まれたくない

「① そのまま使えば楽だ」については、多くの自治体では、独自の給与制度を検討できるほどの人員を割けません。

人事院の給与勧告は、役所の事情に加えて、財政事情、政治状況、公務員に対する国民の見方などを総合考慮したものです。スタッフの人数が限られる自治体では、そこまでの検討を独自にはできませんので、事実上、人事院勧告の方針を踏襲することになります。

「② 議会や住民に説明しやすい」については、国と同じだとか、国よりさらに減らしていると説明すれば、ひとまずは議会や住民に納得してもらいやすいということです。
国と扱いが違うとなると、独自に理屈を考えなくてはいけません。

また、人事院勧告に準じて職員の給料を減らすのであれば、職員(組合)にも受け入れてもらいやすいという側面もあります。

「③ 国に睨まれたくない」については、ごく一部の不交付団体を除き、国から地方交付税交付金が支給されています。この交付金には、職員の給与分も含まれています。

国の給与改定の方針に従わない、ましてや国よりも給与が高いとなると、「その分は自前の財源で負担してください」と言われて、いずれは交付金を減らされかねません。

実際のところはともかく、国に楯突いていると思われると、交付税だけでなく、諸々の補助金、許認可などでも不利益を受けるのではという憶測もあるでしょう。

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