択一試験に込められた当局の思惑

平成27年度の採用試験以降、択一試験(教養試験)の得点が、最終合否を決する総合得点に含まれるようになりました。

それ以前は1次試験の足切りとしてしか使用されていませんでしたので、択一試験の重要性が増したと言えます。

もっとも、従前の択一試験の位置づけから考えれば、他の筆記試験、面接試験との傾斜配点はそれほど大きなものではないでしょう。

傾斜配分を公表していないのは、将来、必要に応じて機動的に変更できるようにしたい(その際、変更の理由などを外部に説明しなくて済む)、配点の低い科目でも手を抜いてほしくない(行政機関の職員として、ある程度は万遍なく能力を伸ばしてほしい)、という趣旨が考えられます。

この平成27年度の改正は、技術系での試験内容の改正が震源地と思われます。

技術系の択一試験では、自然科学分野の選択を増やし、知能分野(論理的思考力)の出題数を増やしたうえで、最終合否に関わる総合得点に含めることとされました。

特段の公務員試験対策(特に知識分野への対策)は行っていないものの、理系人材として基本的な能力を十分に備えている人材が採用試験で不利にならないように、という配慮をさらに進めたものです。

つまり、理系人材としての基礎的知識を備えつつ、論理的思考力の優れた人材を採用したいということです。

(もっとも、いくら頭が良くても、全く知識が備わっていなければ「理系人材」として活用できませんので、当局も一定の知識水準は要求しています)

都人事当局も、「今回の見直しの効果を最大限高めるため、合格者の決定は、教養試験の成績を含めた総合成績により行う」と述べています。

技術系で択一を総合成績に含めることにしたため、事務系(行政職)も同じ扱いにしないと座りが悪いということで、そうなったのではないかと思います。
同時に、事務系も回答時間を延長することで、知能分野に強みを持つ人材が不利にならないように配慮されています。

近年の採用試験においては、知識(暗記)系の負担(比重)を軽減する方向で見直されてきました。

採用当局は、知識面は一定水準をクリアしていれば十分と考えており、より多くの知識を持つ人材をより高く評価するわけではありません。つまり、知識はそこそこで構わないという認識です。

択一試験の出題構成は、事務系は知能24問、知識16問です。技術系は知能27問、知識13問です。特に技術系は知識分野のうち多くは自然科学からの出題で、理系人材としての基礎的な教養があれば解けるレベルの出題となるようです。

知識分野は出題数が少ない上に、(特に理系では)それほど得点に差も付かないことが想定されますから、実質的には、知能分野の出来が最終合否に影響する仕組みになっています。

なお、択一試験の負担軽減は、庁内の昇任試験でも行われてきました。暗記よりも、考える力を重視する方向に都庁が舵を切ってきた表れと言えます。

庁内の昇任試験では、出題範囲の縮小に加えて、足切りのみで使用されるようになり、近年はさらに資格化(一度合格すれば、翌年度から3年間は択一免除)と、択一の比重が軽減されてきました。

そうした方向性は、採用試験にも反映されてきています。昔は専門択一まで行われていました。

一方で、当局は優秀な人材を取り逃がしたくないはずです。論文・面接の採点を行う物理的な制約から人数の絞り込みが必要だとしても、択一の足切りで本来取りたい人材を見逃すことになるのではとも思えます。
(択一の成績が一定基準に達しない場合、論文・専門記述を採点してもらえません)

おそらく当局は、本当に取りたい人材が択一のボーダーでひっかかることはないだろう、余裕を持って合格するだろうという認識を持っています。たまたま当日調子が悪く、本来の実力が発揮できなくても、ボーダーラインは上回ってくるだろうと。

労せずボーダーを超えられる能力の持ち主ならそれはそれで構わないが、そうでなければ相当の努力を重ねて与えられた課題を克服してほしい、というのが当局の本音でしょう。

当局が採用を想定している人材は、要領が良い、記憶力に優れる、努力でカバー、いずれでもよいのですが、与えられた課題に対して一定の結果を出せる人材です。

職務の場面でも、新しい知識を身に付けたり、生のデータから課題を抽出したりという過程が必ず出てきます。ときには面白い、興味深いと感じることもあるでしょうが、受験勉強同様、地道な努力もかなり必要とされます。

択一のボーダーを確実に超えるために、周りよりも一か月早く準備に着手する、電車での移動中も活用して毎日30分余分に時間を取るなど、どこまで本気か、どこまで努力できるかも勝負のうちと言えます。

与えられた課題に対して、どう取り組むか、どこまでを目指すかという姿勢が試されていると言えるでしょう。

そのために、自分の現状と目指すべき到達点を把握し、どの分野で何点取る必要があるか、いつまでに何をどの程度やるか、大学や予備校、あるいは先輩合格者などのリソースをどう活用するかなど、戦略性、計画性を持って臨むことが必要です。
(そうした戦略性、計画性を発揮した経験は仕事でも大いに役立ちます。ということは、面接でも使えるネタだということです)

ときには、択一の勉強をしていて、こんなことが都庁に入ってから役に立つのだろうかと疑問に感じ、やる気が出ないことがあるかもしれません。
確かに、採用試験で求められる知識そのものは、職務に直接活用できないケースがほとんどです。

もっとも、基礎知識があれば応用編を学ぶ際のハードルが低くなりますし、正確な知識を身に付けようとする姿勢や、その人なりの習得ノウハウは、そのまま活用することができます。

また、自分なりの、一見つまらない作業を面白いものにするコツや、モチベーションを上げるノウハウがあれば、職場改善につながるものとして、上司から大いに重宝される、言い換えるなら、面接官からも見どころのある人材と評価されるでしょう。

一方で、細かい知識を覚えるのは嫌いだが、発想力は負けない、というタイプの優秀な人材もいます。しかし、都の職員としてどうかという点では、あまり向かないと思います。
日々の業務遂行でも、政策立案でも、ベースとして法令などの専門知識がどうしても必要になるためです。しかも、人事異動のたびに新しい知識を仕入れる必要があります。

知識系も苦手ではないが、思考力、発想力のほうに自信がある、というタイプであれば、今、まさに都庁が求めている人材です。

なお、平成25年度の採用試験から「新方式」が導入されましたが、あくまでも「公務員試験特有の知識」が不要ということです。
専門知識までは必要ないとしても、普段から都政に対する問題意識を持って一定の知識を仕入れていないと、課題やプレゼンで一般論に終始し、具体的な解決策を提言できません。

それでも従来方式の受験生から見れば、地道な暗記作業が少なくても合格できる新方式がうらやましく思えるかもしれません。

ただし、新制度で合格しても、現状では、配属先や昇任試験で別枠にはなりません。配属後は、法律・制度に関する知識を早急に身に付けることが求められます。また、昇任試験でもこうした知識を試されます。

法律などの知識習得に慣れているという点で、従来枠のほうが入ってからは楽だという側面はあるでしょう。
逆に新方式で臨まれる方は、それくらいは追い付いてみせるという意気込みが必要です。

最後にまとめると、択一試験に向けては、余裕を持ってボーダーを上回ることを目標に戦略、計画を立てることが望まれます。仮に当日調子が悪くても、多少のミスがあっても、ボーダーは超えられるようにするためです。そうでないと受験がギャンブルになってしまいます。

ただし、択一が総合成績に加味されるといっても、満点を狙う必要はありません。択一試験の精度を高めようとするあまり、机に向かうために時間が取られて、他の活動が疎かになっては本末転倒です。学生としての本来の活動がおろそかになってはいけないという理念もそうですが、一人で机に向かってばかりでは人物の審査である面接に向けた「基礎体力」が削がれてしまいます。

最初は少しずつ、一日30分でもよいので、なるべく早い時期に着手し、何回も繰り返すことで知識の定着を図る方法をお勧めします。新年を迎えて、何をいつまでに、何回行うのか、受験プロジェクトのスケジュールを作成するとよいでしょう。

地道な作業でやる気がなくなったら、都庁の仕事でもこうした場面での踏ん張りが必要だと思い出してください。モチベーションを保つ自分なりの工夫を生み出して、面接でも披露すれば一石二鳥です。


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