面接の評価対象は、その場の発言だけではない

面接対策を、「数十分間の質疑応答を上手く切り抜けること」と捉えてしまうと、就職活動の限られた時間、貴重なチャンスを無駄に費やしかねません。

都庁の採用試験案内には、面接では「人物の審査」を行うと明記されています。面接の場における受験生の回答内容を審査するとは書かれていません。

あるビジネス誌の記事で、外資系企業のトップを務めた方の面接のポイントが紹介されていました。

この方は、幹部の中途採用では自ら面接し、採否を決断していたとのことですが、試行錯誤を重ね、入社後に期待通り活躍したという意味での採用「成功率」を6割まで高めたそうです。
一方で、一般の組織では「成功率」は3割程度と述べています。

それだけ、過去の経歴や面接で人物を見抜くのは難しいということです。

偶然の一致かもしれませんが、3割というのは、ちょうど都庁の主任試験合格率と同じです。都庁の若手職員は、伝統的には、主任昇任でようやく一人前と見なされます。
また、毎年の勤務評定で、標準を上回る評価を受ける職員も全体の上位3割です。

面接だけで人を見抜けるか
「時間の限られる面接で、自分という人材を本当に理解してもらえるのか」
それは、不可能です。

例えば、アルバイト先で、新しい人に出会ったとします。普段学校で何を勉強しているのか、サークルで何をしているのか、30分、1時間、詳しく話を聞いたとしても、その人物の全てを理解したとは言えません。

一緒に仕事をしながら、良いことも、悪いことも起こる中で、徐々にその人物の本当の姿が分かってくるはずです。

本当は実際の業務や職場に似た環境で、様々なことが起きる状況で人物像を見極めるのがベストですが、採用に割ける時間、労力も限られます。就活生の側でも、その官庁や企業だけを受験しているわけでなく、そこまでコミットできないという事情もあります。

したがって、採用する側としては、ある程度、確率論で進めざるを得ません。冒頭で紹介したように6割でも高い成功率で、一般的には3割という話です。

採用試験に臨む際には、「自分という人材を理解してもらう」「過去の実績を高く評価してもらう」ためでなく、「採用後に活躍できる可能性が高い人材と認識してもらう」という視点で臨むのが得策です。

面接試験を通過できないと自分の能力や人格を否定されたような気がすることもありますが、一般的に、本当に見抜くことができているケースは3割程度というのが実状です。

一方、受験生の側としては、「自分は活躍できる人材だ」と面接官に伝わる確率を高める取組も必要です。これを6割、8割と高めて、活躍できる可能性が高い人材の枠(高得点を与えて、優先的に採用)に入ることを目指します。

冒頭で紹介したとおり、採用者側の「成功率」は高くないということですが、一方で、本来は採用後に活躍できたにもかかわらず、面接では評価されずに不合格になった人も大勢いるはずです。

面接官の評価にお任せするという姿勢では、心もとないと言えます。採用後の活躍につながる基礎力・経験を磨きながら、それを面接官に上手く伝えるという二段階のアプローチが必要です。

面接で検証される人物像
冒頭の経営者の方は、朝8時と早い時間に面接時間を設定し、遅刻した場合はどんなに優秀でも採用しなかったと紹介しています。

不採用の理由として、記事の中では「倫理観の欠如」を中心に挙げています。
さらに、「相手に失礼」といった儀礼上の問題だけでなく、大事な場面に向けて、いざというときの「プランB」を準備しておく人材かどうかも見られていると言ってよいでしょう。

例えば、「電車が遅れるかもしれない」「寝坊してしまうかもしれない」という事態に備えて、「早めに到着して、現場で待機する」「起床していることを確認してもらうよう、家族に協力を依頼する」など、手を打っておく人材かどうかです。

約束の時間に遅れて言い訳をする人材は、仕事の大事な場面でも責任を転嫁する可能性がある、一世一代の重要な場面で「プランB」を用意しておらず組織にダメージを与える可能性がある、と評価されるということです。

あるいは、口では「第一志望」「今日の面接にかけている」と言っているが、「遅刻するくらいだから、本当の志望度は低い」と認識されるかもしれません。

受験生の中には、ドアのノックの回数や椅子の座り方を気にしている方も多いようですが、仮にその点にミスがあったとしても、「緊張しているのかな」という話で済みます。細かな作法については、採用後の研修で指導すればよいのです。

本当に大事なのは、日常の活動の中で伺えるその人物の考え方や行動様式、試験に臨むにあたっての準備姿勢のほうです。こうしたエピソードを通じて、面接官は、その組織で活躍できる可能性や、場合によっては組織にマイナスとなる可能性を推測します。

面接官は、受験生の主張をその言葉のまま受け入れてくれるわけではないため、慎重な対応が必要です。

筆記試験であれば、初めに誤った回答を記述していたとしても、それを抹消し、最終的に正しい回答を記述すれば、何も問題はありません。採点官は、最終的に答案に記載されている内容のみを審査します。

一方、面接試験では、回答の変更や訂正は容易に認められません。人物を審査している面接では、「先ほどの発言のほうが本音ではないか」「自分の考えを整理してから話す力に欠けるのではないか」といった評価につながる可能性があるためです。


また、筆記試験であれば、文字が薄い、乱雑という理由で、「内容に自信がないのではないか」といったマイナス評価を受けることはありません。判読可能でありさえすれば、記述内容に基づいて採点されます。

一方、面接試験では、ある回答を行う際に声が小さくなった、ずっとうつむいていたとなると、発言の内容そのものは模範的だったとしても、「その回答には自信がない様子だ」「何か不都合を隠しているのではないか」といった疑念を抱きかねません。
人物の審査を行う面接では、受験生の発言内容そのものよりも、面接官が受け取った人物像のほうが優先されます。

面接対策としては、直前期に模範解答を暗記するだけでは役に立ちません。人物を審査しようとしている面接官に対して、どのように伝えるかも重要な要素です。

そして、最も確実な面接対策は、ことさらに面接のテクニックを磨くことではなく、普段の活動の中で望ましい思考様式・行動様式を心掛けることです。

普段から心掛けていることが面接の場でも自然に体現されている、という評価を受けることが目標です。そのためには、できるだけ早い段階から戦略的に取り組む必要があります。

面接の場だけ取り繕うという発想では、上手くいくこともあるかもしれませんが、突っ込んだ質問で本来の姿を暴かれる可能性が高いでしょう。

たとえ上手く言い逃れをしたとしても、「嘘をついているとまでは断言できないけれど、何かあやしいな」と面接官に違和感、釈然としない印象が残ると、採用に向けて積極的に推薦できる人物という評価を受けることはありません。


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