受験生が知っておくべき、都知事の施政方針(平成28年・三定)

都知事が都議会(平成28年第3回定例会)で所信表明を行いました。
受験生の方が都政の重要課題を知るための参考になりますので、抜粋を紹介したいと思います。また、将来携わってみたい仕事が都庁にあるか、都庁では自分の望む働き方ができそうか検討する際にも活用してください。

都の施策等を調べる際は、都が何を実施すると述べているかだけでなく、なぜその施策が必要か、どのように実行すると述べているか、プロセスの部分にもぜひ着目してください。論文や面接で試されるのは、この部分です。

<以下、知事所信表明抜粋>

1 都政運営に対する基本姿勢
「都政改革本部」の始動
 東京大改革を推進するに当たっての肝となるのは、都政の透明化、つまり、見える化、分かる化の徹底であります。
 そのためには、職員一人ひとりが自ら改革の担い手となり、積極的に情報公開を行う姿勢を持ちながら、日常的に仕事の進め方を見直していかなければなりません。

 「ワイズ・スペンディング」という言葉がありますが、豊かな税収を背景に、税金の有効活用の観点が損なわれることがあってはなりません。
 ましてや国際情勢、世界経済は不透明であり、その豊かな税収が約束されているわけではない今日であります。
 そうした問題の下、都庁の自己改革精神を呼び醒ます装置として設置いたしましたのが、私自らが本部長となる「都政改革本部」であります。

 目下、各局が本部と連携しながら、自律的な改革を進めております。
 同時に、本部に設けた「情報公開調査チーム」「オリンピック・パラリンピック調査チーム」「内部統制プロジェクトチーム」が、それぞれの課題について実態調査と評価を行い、都民ファーストの都政に向けた改善策を検討しているところであります。

 都政の適正な運営に欠かせない都議会の皆様によるチェックに加え、都自らが見える化を徹底し、これまでの延長線ではない改革を不断に進めることで、都民の皆様からの信頼を、再び取り戻さなくてはなりません。
 それは決して簡単なことではありません。改革への挑戦に「これまでと勝手が違う」と困惑する職員もおられることでありましょう。
 しかし、これからの東京の発展のため、今ここで、全庁に改革マインドを根付かせていかなければなりません。

2 「新しい東京」を目指して
 都民ファーストの都政を展開し、都政に対する都民の信頼を回復したその先に何を目指すのか。
それは、「新しい東京」、すなわち、誰もが希望と活力を持って安心して生活し、日本の成長のエンジンとして世界の中でも輝き続けるサスティナブル、持続可能な首都・東京を創り上げることであります。
 そのためにも、「セーフ シティ」「ダイバーシティ」「スマート シティ」の3つのシティを実現をし、東京の課題解決と成長創出に取り組んでまいります。

都民誰もがいきいきと活躍できる「ダイバーシティ」
〈待機児童問題に迅速に対処〉
 誰もが希望、そして活力を持てる東京の基盤となるのは、都民一人ひとりが存分に活躍できる環境であります。
 女性も、男性も、子供も、シニアも、障がい者も、いきいき生活できる、活躍できる都市。多様性が尊重され、温かく、優しさに溢れる都市。そのような「ダイバーシティ」を実現してまいります。

 東京は、世界から見ると、女性の力を十分に活かし切れているとはいえません。
 一つの指標として、35歳から44歳の女性の労働力率を比較してみましょう。女性の活躍に力を入れているスウェーデンでは9割であるのに対し、東京では子育て世代が落ち込むM字カーブの谷に当たり、7割にとどまっております。
 女性が、子育てか仕事かという二者択一を迫られている現状に早く終止符を打たなければ、これからの東京の持続可能な発展はあり得ないのです。そのような東京の実現に向けた喫緊の課題は、待機児童の解消でありましょう。

 国家戦略特区を活用した都立公園への保育所整備など、従前からの取組に加え、先日、待機児童解消に向けた緊急対策を取りまとめました。
 「保育所等の整備促進」「人材の確保・定着の支援」「利用者支援の充実」。この3つを柱とする、「すぐ効く、よく効く」を目指した独自の11の対策からなっており、区市町村や事業者の早期着手を促す工夫も設けて展開してまいります。

 併せて、国とも連携してこの問題にしっかりと取り組んでいくという観点から、育児休業制度や保育所の規制等の改革を、直接、安倍総理に要望をいたしました。
 今後、さらなる都独自の支援策も、平成29年度予算案に反映していきたいと存じます。幅広く、果敢な取組で、東京の子育て環境を充実してまいります。

〈働き方改革が都民の活力を引き出す〉
 もはや、長く働けばそれだけ利益が上がる時代ではございません。私はむしろ、夜遅くまでの長時間労働、あるいは満員電車での通勤などは、社会から活力を低下させかねないと思っております。
 東京から「ライフ・ワーク・バランス」を進めてまいりましょう。ワーク・ライフ・バランスの「ワーク」と「ライフ」をあえて逆にしております。誰もが人生、生活も、もっともっと大切にすべきであります。

 仕事の生産性を上げて、家族と過ごす時間や自らを高める時間も大切にする。こうした時間が明日への活力を生み出し、東京の持続的な成長を可能とすると私は信じております。

 働き方の意識や仕事の進め方の改革は必要です。先ず隗より始めよ。先日、育児や介護をはじめ生活と仕事の両立ができる職場づくりに向けて、私を先頭として、都全ての管理職が「イクボス宣言」を行ったところであります。
 ともすれば、夜遅くまで働いている職員を有能と評価しがちな意識を上司が改めて、効率性を追求して、定時で確実に成果を上げる「残業ゼロ」を目指す職場とする取組を始めてまいります。
 そして、「働き方を改革しよう」と宣言した企業も力強く応援し、都民・国民の意識を変えていく。その輪をどんどん広げることで、大きなムーブメントを起こしていきたいと思います。

〈一人ひとりの希望を応援する社会へ〉
 私が目指すサスティナブルな東京を創るためには、将来を担う人材の育成も欠かせません。
 人生を自ら切り開く力を身につけ、激動する世界にも目を向けて活躍できる人材や、東京ひいては日本の成長を支えるイノベーションを生み出す人材を育成していくことが必要であります。
 そのためには、英語など、外国語力の強化や留学支援により子供たちの「内向き志向」を打ち破り、世界に挑戦する気概を育むことや、科学技術立国を支える理数教育の充実を図らなければなりません。
 子供と常に向き合う教育の力を高める取組も重要でありましょう。未来の東京には、どのような人材が求められるのか。こうした観点からこれからの教育の在り方について総合教育会議において教育委員会と議論し、新たな教育施策大綱を策定してまいります。

 また、家庭の経済状況が、子供たちの将来の希望を閉ざすことがあってはなりません。都独自の給付型奨学金について検討を進めるなど、子供たちの学びたいという気持ちにしっかりと応えてまいります。

安全・安心・元気な「セーフ シティ」
 安全・安心は、都民の希望と活力の大前提でございます。都民の生活、命、財産がしっかりと守られ、その安心感が、東京の活気と賑わいを生み出す。
 そして、一人ひとりが、活気溢れる街に愛着と誇りを感じ、自ら率先して地域の安全・安心を守っていく。
 これこそが、目指すべき「セーフ シティ」の姿であります。

〈都民目線で災害に備える〉
 私は、阪神・淡路大震災を経験をいたしました。倒壊した建物や電柱が救急車両の通行を妨げ、火災による被害も瞬く間に広がったことは皆さんもご存知のとおりであります。
 この東京においても、耐震化、不燃化は喫緊の課題であります。救援・復旧活動に不可欠な緊急輸送道路の通行を確保するため、沿道の建築物の耐震化を後押ししてまいります。
 また、延焼を防ぐため、木造住宅密集地域にある家屋の不燃化建替えと、暮らしに密着した生活道路の拡幅工事を、同時並行で支援してまいります。

 併せて、強力に進めるべきは、道路の無電柱化であります。その意義や効果を都民の皆様に広くご理解いただき、推進に向けた大きなうねりを起こしてまいります。そして、事業者間の競争やイノベーションに繋げることで、課題であるコスト削減を図ってまいります。

 大きなハードの整備に加え、被災者の目線に合わせた備えが、実は、いざという時の安心を支えてくれるものであります。
 例えば、乳児用の液体ミルク。水やお湯がなくても飲めるため、特に、母乳による授乳が困難な災害時などには重宝いたします。
 現行の国の規定を含めて課題を整理し、きめ細かい災害対策を実施してまいりたいと思います。

〈地域社会を安全・安心・元気の要に〉
 災害が起こった時には、地域で助け合う共助の取組が、命を守る上で大きなポイントとなります。
安全・安心をさらに強固にする鍵は、地域の絆が握っているのです。そして、活気ある地域ほど、こうした絆は強くなります。
 東京の隅々に広がる町会・自治会、消防団、商店街等を活性化することで、賑わい溢れ、安全・安心な地域社会を創り上げてまいります。

世界に開かれ、成長を続ける「スマート シティ」
 人口や経済成長が右肩上がりであった時代が終焉を迎えた中にあって、日本の成長のエンジンであり続けるサスティナブルな東京を実現する。
 そのためには、IoT、AI、フィンテックなど、今後の成長分野の発展に向けたタイムリーな成長戦略を果敢に展開していかなければなりません。

〈環境先進都市・東京〉
 少資源国である日本は、二度のオイルショック、さらには高度経済成長がもたらした公害問題といった負の経験もバネにしながら、環境・省エネルギー技術を研ぎ澄ましてまいりました。
 今や、地球温暖化対策が大都市の責務となり、環境対策が新たなビジネスチャンスや企業の社会的評価に繋がる時代であります。
 2020年の東京大会を契機とし、低炭素社会の実現に向けた環境技術のさらなるイノベーションや、食品ロス対策を含めた環境配慮型ビジネスモデルへの意識改革を促してまいります。

 リノベーションによる都市の効率化・省エネ化、再生可能エネルギー、自立分散型電源の導入拡大や水素社会の実現によるエネルギーの多様化・分散化、ヒートアイランド対策なども進めてまいります。
 水と緑を守り、快適で環境に優しいまちづくりを通じて、東京をさらなる成長へと導きたいと思います。

 一方で、LED照明の使用拡大や、断熱性が高く、燃料電池や蓄電池等を備えたエコハウスの普及など、省エネ・創エネに向けた都民一人ひとりの取組も支援してまいります。
 身近な取組を積極的にPRをして、具体的な効果を実感してもらうことで、都民の皆様の共感を広めていきたいと思います。
 技術革新、意識改革、そして都民の皆様の共感。このセットを戦略・戦術として、東京大会をスプリングボードに、都民生活や企業活動の「新たな常識」を創り出す。
 日本の伝統的な美徳である「もったいない」精神に溢れ、クリーンで低炭素、そして持続可能な成長を実現する環境先進都市・東京を創出してまいります。

〈再び国際金融の中心へ〉
 ロンドン、ニューヨークと並び、東京は世界の金融の中心でありました。それが今や、アジアの諸都市にその座を奪われております。もう一度、アジア・ナンバーワンの地位を取り戻さなければなりません。

 金融活性化に向けた取組をさらに強化し、国際金融都市・東京の実現に向けた動きをスピードアップさせてまいります。
 例えば、フィンテック分野をはじめとする海外の金融系企業を誘致するため、特区を徹底的に活用し、金融ビジネス交流拠点の整備を迅速に進めてまいります。
 来年度には、外国人の企業設立手続きや生活面を支援する、英語でのワンストップサービスもいよいよ開始します。
教育環境整備に向けたインターナショナルスクールの誘致も促し、2020年までに、金融機関が集まる大手町から兜町地区を、海外の高度金融人材が集積するショーケースへと大改革してまいります。

〈持続可能な成長に向けて〉
 東京には、まだまだ活かし切れていない宝物は、たくさん埋もれております。
 東京の風土と歴史の中で育まれてきた伝統工芸品について、長い歴史に裏打ちされた匠の技を継承しながら、今日の消費者の感覚に合った商品も生み出していく。
 あるいは新鮮で安全・安心な農畜産物を生産している東京の都市農業において、小松菜や練馬大根、TOKYO Xなどに続き、京野菜のようにブランド化を推進していく。
 このように、東京の新たな一面を掘り起こして、付加価値をつけて発信することで、世界の中の東京の魅力を益々高めたいと思います。

 東京大会を控え、世界の注目を集める今だからこそ、絶好のチャンスであります。東京のブランディングを成長戦略の一つと位置づけ、インバウンドの増加に向け、積極的に取り組んでまいりたいと存じます。

 そして、そのインバウンドを継続的に増加させていくためには、外国人観光客に快適に過ごしてもらうための環境整備も不可欠であります。
 様々な旅行者のニーズに対応して、ITもフル活用して、観光案内所の整備、駅・街中での多言語対応の充実や、トイレの洋式化など、細やかな気配りも忘れずに進めてまいります。

 国際都市・東京にふさわしい玄関口としての、羽田空港及び東京港の機能強化も重要な課題であります。
 世界からヒト、モノ、カネ、情報が集まり続ける拠点となるよう、国とも連携しながら、国際線の需要増加や国際的な船舶大型化等へ適切に対応してまいります。
 2020年以降も見据えて、陸・海・空の交通・物流ネットワークを一層充実させ、東京の持続的な成長を支える交通インフラを強化してまいります。

 また、東京・日本の産業を支える中小企業の技術革新や、起業・創業を促進し、新産業の創出に繋げるとともに、優れた技術の次代への承継を支援してまいります。
 海外販路開拓の支援など、世界への飛躍も意識しながら、中小企業のさらなる発展に取り組んでまいります。

新たなプランの策定
 今後、政策の具体化に向けた検討を進め、都議会の皆様とも議論を重ねて、「2020年に向けた実行プラン(仮称)」を年内を目途に策定し、来年度の予算案にも盛り込んでいきたいと考えております。
 これまでの延長線ではない、その延長線を超えた新たな発想を取り入れながら、目指すべき東京の明るい将来像に向けた大義ある政策を、都民の皆様の共感を呼ぶ形で、積極的に立案をしてまいります。
 さらに、2020年以降の東京の未来像「Beyond 2020」、これも描いていかなければなりません。

3 東京2020オリンピック・パラリンピックに向けて
東京大会が目指すもの
 2020年の大会は、単なる1964 Againではなくて、成熟都市であり、世界の最先端都市であるTOKYOを世界にアピールする大会にしなければなりません。ハード面のレガシーだけでなく、ソフト面のレガシーを構築いたします。

都民の共感を得て、共に大会成功への道を歩む
 施設整備や開催経費など様々な課題については、国や組織委員会と緊密な連携を図り、説明責任を果たしながら解決方法を見出すことで、都民の皆様、納税者の皆様のご理解を得たいと思います。

 それらの歩みの中、環境、まちづくり、産業、観光、スポーツ、文化等、あらゆる分野で東京を進化させ、都民生活の質の向上と持続的な成長を実現していく。
そのようなハードとソフトのレガシーを遺してこそ、私たちにとって大会の真の成功と言えるのであります。

 復興五輪であることの原点にも、立ち返らなければなりません。
 被災地の復興なくして、大会の成功はあり得ないのであります。被災地の歩みを力強く発信できるよう、様々な工夫をしていきたいと思います。

 そして私は、パラリンピックの成功なくしても、大会の成功はないと考えております。
 パラリンピックの盛り上がりこそが、多様性を認め合い、あらゆる違いを超えて繋がり合うというオリンピック・パラリンピックの精神を広めるのです。
 高齢者や障がい者に優しいユニバーサルデザインのまちづくりも推し進め、「ダイバーシティ」実現に大きく近づいていきたいと思います。

おわりに
 今改めて、東京市第7代市長を務め、その後関東大震災から帝都・東京を復興させた後藤新平の残した自治三訣を心に刻みます。

 「人のお世話にならぬよう 人のお世話をするよう そしてむくいを求めぬよう」

 「公僕」という言葉は、狭義の公務員のことではありません。「公僕の精神」は、都庁に勤める全ての者に、都議会議員の皆様に、もちろん、知事である私にも求められるものであります。
 常に、都の益、都益、都民の利益を重んじ、有効に活用するワイズ・スペンディングの姿勢が求められております。

 おおやけ、「公」の意識を持たない者が、「個」の利害のために、「公益」を捻じ曲げることがあってはなりません。
 私たちは、今改めて、後藤新平に問われている気がします。あなたは、「人のお世話にならぬよう 人のお世話をするよう そしてむくいを求めぬよう」、それに努めているかと。
 後藤新平が苦労して創った東京の骨格に、溢れんばかりの贅肉をつけてしまった巨大な肥満都市東京を叱っている、そんな気がいたします。

 今一度、しっかりとした骨格を創り、50年、100年後の東京を構想しなければなりません。
 今の都民のために、そして未だ見ぬ100年後の都民のために、働かなくてはいけない。そう決意をいたしております。

 そして、「これからもっと東京は良くなる」と都民が希望を持てる都政を展開する。
 そして、日本の未来を明るく照らす「新しい東京」を、都民の皆様、都議会の皆様と共に創り上げていきたいと思います。