東京オリンピックと都庁の役割

(以下の記事内容は、2013年9月現在のものです)
東京オリンピック開催に向けて、スポーツ振興局だけでなく、各局でもインフラ整備、イベント実施など様々な関連事業が発生するはずです。これまで、各局の役割は招致PRなど広報サポートが中心でした。これからは、どの局に配属されたとしても、開催準備に関連する仕事に携わる機会が増えると思います。

都庁各局の抱える既存の懸案事項も、オリンピック準備を梃子に、大きく動くものが出てきます。これから都庁に入る方は、ダイナミックな都政に携わるチャンスが高まりました。

これは都庁とは直接関係はありませんが、さっそく、リニア開通を2020年までに早められないかという議論があったようですが、工期を半分に短縮というのはさすがに無理なようです。
このように、「どうせやるならオリンピック前に」という議論は、様々な分野で出てくると思います。

都の施策でも、例えば木造住宅密集地域の解消など、利害関係者が多いものはなかなか進みません。全体として見れば賛同できることでも、自分が当事者として立ち退きや家の建替えを迫られるとしたら、おいそれと分かったとは言えないと思います。

今後は、「オリンピックがあるならしょうがないか」と協力を得やすくなる機運が生まれるかもしれません。

都庁の準備体制
都庁のオリンピック所管部署は、かつては知事本局の中に招致本部(トップは局長級)を置いていました。今回の招致活動ではJOCが前面に出るという趣旨もあり、現在はスポーツ振興局の部のひとつ(トップは部長級)になっています。

これからは開催都市として都が前面に出ることが求められ、全庁的な司令塔が必要となるでしょう。

都はさっそく、庁内に「実施準備会議」を設置しました。これは、猪瀬知事を委員長、2人の副知事を副委員長に33人の幹部(各局の局長等)で構成されるものです。
準備会議では、競技会場や選手村の整備、大会のPRなど五輪関係の課題をオール都庁で検討するようです。

知事は911日開催の庁議で、単にオリンピック開催だけでなく、未来の都市のあり方についても都庁が役割を果たすべきと発言しています。

これからの7年間は、世界の注目が日本に、東京に集まります。そうした中で我々が為すべきは何か。単に大会の準備を滞りなく進めるだけではないのです。
「明日」の課題に真正面から向き合い、そこに希望を創り出し、それを世界に向けて発信し、拡げていく。
「不確実な時代に、新しい未来とは何か」この答えを見つけることが、洗練された成熟都市・東京の、オリンピック・パラリンピックの意味だと思います。(猪瀬知事発言抜粋)

実施準備会議の設置については、ひとまず動き見せる必要があるということで、すぐにできることを実行ということでしょうが(新たに部局を設けるとなると、都議会での議決が必要)、都に限らず、役所の〇〇会議というもので、報告会、勉強会以上の目覚ましい成果を挙げたものは残念ながら稀です。

現在の所管部署であるスポーツ振興局は、全体でも200名弱の小さな組織です。大会プログラムに関することはともかく、交通や治安対策、宿泊施設、競技場をどうするか、さらに道路、水道、下水といったインフラ系までは、人員の点でも、所掌分野の点でも手におえないでしょう。

スポーツ振興の理念からスポーツ振興局に担当部署を置きながらも、都市としてのグランドデザインを描き、各局の取組を束ねる部署が必要です。
当面は「2020年の東京」と同様、知事本局が取りまとめ役を担い、各局に個別施策を募るスタンスと思われます。

今後、全庁に号令を出せる強力な推進部署が必要となれば、都市インフラ整備を含めた統括本部を知事本局内に設置や、専任の副知事を任命、も考えられます。
独立した局を新たに設置し、招致推進部を移管も考えられますが、新しい局が限られた期間で全庁的なリーダーシップを発揮できるようになるか、リスクがあります。

政府も文部科学省の傘下にスポーツ庁の設置を検討しているようです。
報道によると、厚生労働省所管の障害者スポーツなど、複数省庁に分かれているスポーツ関連業務の統合が検討されています。役所の発想からすると、文科省に仕事を奪われるという感覚かもしれません。スムーズに事が進むとよいのですが。

観光客は増えるか
2012年ロンドン・オリンピックでは、筆者も一観戦者として現地に赴きました。
混雑を減少させる取組が功を奏した面もあるのでしょうが、バスも電車も、繁華街も通常期より人出が少なく奇妙に思っていたところ、後日の報道によると、海外からの観光客は前年同期比で5%減とのことです。混雑を予想して旅行者が敬遠したこと、宿泊費の高騰が原因に挙げられていました。

筆者の宿泊したベーシックなビジネスホテル(日本の東横インのようなチェーン)でも、通常期の3倍に値上がりしていました。もともと宿泊費の高いロンドンでは、全くお得感がありません。

メイン会場のすぐそばとなると、通常期の5倍くらいになっていたようです。それでも仕事で行く人は職場が払ってくれるのかもしれません。もっとも、あまりに強気の値付けをしていたホテルは、直前になっても空室が埋まらず、投げ売りが始まったというニュースも報じられていました。

ロンドン五輪の場合、会場が多少分散していたため、メイン会場から離れていて、かつ人気競技がない会場周辺では、それほど高騰していなかったようです(それでも通常期の2倍くらい)。

東京はコンパクトを打ち出しているだけに、競技エリア一帯は全て高騰しそうな気がします。観光客に敬遠されないよう、手ごろな価格帯のホテルの紹介、初めての訪問者でもそこから会場まで問題なく(迷わず、安全に)たどり着けることをしっかり広報することが必要です。東京の治安が良いのは知られているでしょうが、外国の慣れない街で1時間も電車に乗って移動するのは不安です。

ロンドンはもともと世界的な観光地ですので、観光客数の伸びしろが少なかったということもあるでしょうが、オリンピックだから観光客が増えると安心することはできません。

オリンピック後
ロンドン五輪のメイン会場となった市東部地域は、歴史的に貧困地区と位置付けられています。東部地域の状況を改善するための起爆剤として、リビングストン市長時代(2000-2008)に招致が行われました。
なお、開催地決定後、オリンピック招致は、(高尚な理念があってというよりは)再開発に必要な資金を政府から引き出すのが目的だったと本音を明かし、物議を醸しました。

東京でも地域によって平均所得の高低はあると思いますが、ロンドン市内の格差は東京の比ではありません。ロンドンの場合、地区によって失業率、犯罪発生率、健康状態、平均寿命まで大きく異なります。同じ市内でも富裕地区と貧困地区では、平均寿命が5~9歳も違いがあります。こうした貧困地区はDeprived Area(奪われた地域)と呼ばれ、長年ロンドンが抱えている課題です。

選手村の宿泊施設は、五輪終了後、当該地域の住民でも手の届く価格帯で販売(賃貸)されることを前提にデザインされました。
また、オリンピック開催の機会を捉えて、貧困地区の若者に対して、スポーツを通し努力して目標を達成する喜びを感じてもらうイベント、大会運営の準備やボランティアを通じて職業訓練の機会として活用する取組も行われています。

オリンピック自体を成功に導くことは主に大会運営委員会の役割ですが、オリンピックを契機として東京をどうしたいのか、大会後にどう活用していくのか考え、実行することは、都市を運営する都庁の役割です。もともと「なぜ東京か」が弱いと言われていましたので、これからが知恵の見せ所ですが、東京という街の宣伝で終わってはもったいないと思います。

オリンピック所管部署への異動
北京やロンドンの五輪へ行かれた方は、競技場運営の実際や、開催期の街の状況に直接触れているはずです。異動希望を出す際の良い切り口になると思います。
ましてや、将来、五輪(または国際的な大イベント)の運営に携わるために、勉強のために行ったのだとすれば、行動力も相当なものです。(話半分として受け取られるかもしれませんが、他に補強証拠があるなら)

また、オリンピック関連業務といっても、担当職務によって求められる資質は多様です(外国語ができれば有利な仕事もあれば、語学は関係ない仕事もある)。どの部署でどんな人材が求められているのか、自分の強みとのすり合わせが重要です。やってみたいという思いだけでは、なかなか異動希望は通りません。

都庁組織内の機運向上のためにも、異動希望者を庁内公募にかければよいと思いますが、過去の事例を引き合いに出して、こんなところは東京にも応用できる、ここは改善の余地があるなど、自分なりのアイディアがあれば面接でアピールできると思います。

ところで、念のため、これから都庁に入る方に向けてですが、最初の配属先はそうそう希望どおりには行きません。(仮に希望どおりだったとしても、それは偶然です。実務経験を有する社会人採用の場合は別ですが)

採用面接で、オリンピック関連部署で働きたいと熱弁するあまり、希望通りにならなかったらどうするのか、という質問で墓穴を掘ることがないよう注意が必要です。
チャンスがあればぜひ携わりたい、くらいのスタンスで十分です。
オリンピックまではあと7年です。採用試験の段階では、もっと長いスパンで都庁で何を成し遂げたいのか説明する必要があります。


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